メルカリと日本財団による連携のキーマンである笹川順平 専務理事へのインタビュー後編です。前半では「メルカリ寄付」や「寄付型梱包資材」、「メルカリ寄付 かんたん寄付設定」などによる寄付の取り組みについてお聞きしましたが、後編では、企業と日本財団のような団体との連携や、企業が社会的価値の視点を持つことの重要性などについて話を伺ってきました。
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「メルカリエコボックス」によるリユース促進やごみ減量の取組
メルカリ政策企画参事 高橋亮平(以下、高橋)> 日本財団とは、「メルカリエコボックス」を製作し、海ごみ問題を含めたごみ減量の取り組みとして、全国23自治体を巻き込んでリユース推進にも取り組みました。
今年は、自治体に配布した「メルカリエコボックス」のうちまだ残っていたものを小学生たちの授業で活用しました。ご家庭に「メルカリエコボックス」を持ち帰り、家庭にあるまだ使える不要品を「見える化」し、その中から売れそうなものを学校に持って来てもらい、「メルカリかんさつ帳」で「メルカリ」に出品をする擬似体験をしてもらうとともに、さらにリユースを進めていく方法について考えてもらいました。こうしたプログラムも日本財団との取り組みがあってできたもので、このような連携によって、リユースやごみ減量についても善意の循環による新たな取り組みが生まれています。寄付に限らない善意の循環の仕組みについても、また何かご一緒することでできることもあるといいですね。公益財団法人 日本財団 笹川 順平 専務理事(以下、日本財団 笹川 専務)> ごみ問題も大事ですが、それ以上に「なぜごみが出るか」というところへのアプローチこそが、メルカリのビジネスモデルの根幹だと思うんですよね。 そういうアプローチでも何かできればいいなと思います。
ちょうど今、個人的に「人間という生き物とは何なのか」ということに関心があって生物学を勉強しています。「動的平衡」っていう言葉があり、人間って簡単にいうと、毎日毎日細胞が劣化して排出されていて、新しい細胞に変わっている。例えば、形は高橋さんの形なんだけど、中身は1週間ぐらいで全部変わっているんです。生物って基本的にはどんどん拡大したがるんですよ。ところが、人間の中身っていうのはよくできていて、それを整理し、平衡を保つような作用が生まれて、いらないものはどんどん破棄することを日常的に繰り返しているんです。
生活についても同じで、お金を持てばいろいろなものが欲しくなり、いろいろな人とお付き合いもしたくなります。しかし、そのままだとどんどん拡大するばかりで不幸になるんです。これを整理すると非常にスッキリとした脳みそになっていくと思います。こうした考え方と「メルカリ」のサービスは非常に近くて、多くのモノに溢れている状況を整理して、本当に必要なものだけにしていくことで、違う世界が見えてくる。ごみだけではなく、自分での行為も整理して、改めていくことが大事だと考えています。
「メルカリ」にソーシャルポイントみたいなものがあってもいいのでは
日本財団 笹川 専務> 今後について言うと、「メルカリ」に「ソーシャルポイント」のようなものを作ってくれたらいいなと思います。「メルカリ寄付」や「寄付型梱包資材」など、社会へ貢献するための選択肢を増やして、社会に還元した人にはポイントが溜まっていくことができるものです。そして、ブロンズ、シルバー、ゴールドなどでもいいのですが、新たな社会的価値を生むバッジができたらおもしろいと思います。例えば、1万ポイント貯まったら、その1万ポイントは何かに変わるんです。それを日本財団が提供します。
例えば、すごくかっこいい車椅子って沢山あるんですね。パラリンピアンと一緒にその車椅子を体験することにそのポイントを活用できたりだとか、少し話題になったTHE TOKYO TOILETのツアーでもいいですし、いろいろな社会的なものや文化的なものなどを体験して社会を学ぶツアーを組むというのでも良いと思います。社会に関連するだけではなくて、自分の社会価値の感覚を高めていくことに活用できるというのが重要だと考えています。
ビジネスも視点の半分を社会価値に向けてみることで大きく変わる
高橋> メルカリに限らず、日本財団として企業との連携によって、このようなことがやりたいということは他にありますか。
日本財団 笹川 専務> それはもう大いにあります。僕らであれば、企業が持っている強みというのを違う形でもっと生かせると思っています。
社会に出て企業人になると評価されなければならないし、経営者や上司、投資家など様々な関係性の中で、クレームばかり来たりする中で仕事をすることもあります。ですが、社会との接点に改めて目を向けると、これまで仕事の中で当たり前にマイナスに考えてたものがプラスに転じて評価されることがあります。どうしても営利を追求するだけの仕組みの中では限界があります。例えば、人生の半分は社会に目を向けて見ることが大事だと思いますが、多くの方はもう半分のビジネスしか見ていません。ビジネスと社会貢献は両輪であり、この両方を見せることが重要だと思っています。
我々の提案やサポートがきっかけとなり実現できることもあると思っており、このような話をもっと多くの企業などに伝えていきたいと思っています。
社会というのは矛盾と課題だらけです。とくにビジネスの世界だけでは「お金にならないからできない」ということは少なくありません。社会の中には、「仕方ない」ということで行われていることが沢山あります。
このような無駄な仕組みを人間社会が作ってしまっている側面もありますが、それを一個一個紐解けば、解決方法は必ずあるでしょう。もっともっと民間企業の方々も巻き込んで、取り組まなければいけないと考えています。
日本財団は、民間企業の感度の高い皆さんと率先して仕組みを作って変えていきたいと思っていて、その1つがメルカリとの提携だったと思います。
社会的な目線を入れることで、三方良しの仕組みを作ることができたと自負していて、「メルカリ」の仕組みももっとさらに進化できると期待しています。
潜在顧客をどうやって掘り起こすかがビジネスの真髄なので、今利用してもらっている約2,300万人ではない新たな1,000万人の顧客をどう作るかというところに対し、社会的価値を加えることによる可能性があるのではないでしょうか。
お金を稼いだり社会と関わる教育における連携にも可能性
日本財団 笹川 専務> 少し話はそれますが、投資家のウォーレン・バフェット氏の本を読むと、彼は中学生の時にお父さんから「コーラの瓶を回収してお金にしてみろ」と言われ、それがきっかけで空き瓶がお金になることや、仕入れに費用がかからずに売れて全部利益になる、と考えたところからビジネスを学んだとあります。私も学生の頃に父親から頼まれたことでビジネスを体感的に学んだことがありました。このような経験を、できれば小学校の高学年くらいから伝えていく必要があると思っています。「お金持ちになることがいいこと」ということではありませんが、稼ぐということを知ってる人と知らない人とでは全然違います。だから、このような「稼ぐ」ということについても、もっと教育を行っていく必要を感じます。いわゆるファイナンスリテラシーですが、このようなちょっとしたビジネスの根源を「メルカリ」を通して教育できたら物凄く意義深いと思います。日本財団では、今年から新しい大学を創るので、教育での連携にも可能性を感じます。
高橋> メルカリでは、商業高校などで「メルカリShops」で実際にEC販売する授業を行っています。とくに今年は、「サーキュラーエコノミー教育」と位置付けて、学校が所在する自治体などと連携して、市役所や公共施設、商店街などに「メルカリエコボックス」を設置し、市民の皆さんから衣類などまだ使えるけど不要になったものをいただき、アップサイクルなどして「メルカリShops」で販売するという授業を実施しました。個人的に、商業高校には最新のビジネスを実践的に学ぶことなど新しくやれることも多く、現状では普通科の高校の方が人気がありますが、やり方によって大きな可能性があると思います。このような授業での取り組みは、リユース教育にもなっているほか、町のリユース推進に高校生たちが取り組むというモデルにもなっています。
先程紹介した小学生向けのプログラムも含め、こうした教育における新たな取り組みでも今後可能性があるかもしれませんね。
一歩踏み込んで人と人との繋がりを創っていくことも重要
高橋> 笹川さんと、メルカリと日本財団との連携について最初にご提案をしてからちょうど4年が経ちました。これまで実施してきたことの先に行ってみたいこと、また、日本財団や笹川さんが今後行っていきたいことなどがあれば、教えてください。
日本財団 笹川 専務> 「メルカリShops」を利用する法人顧客が増えていると聞きました。実はそこに潜在的なニーズがあるのではないかと思っています。今、とくに20代は、寂しさを感じています。ネット社会となり、どうしても閉じこもってしまう環境にあるので、人と話す機会が減ったりしています。根源的な人間の欲求というのは、人間同士で価値を共有したり、喜んだり悲しんだり、助け合ったりというところだったりしますが、現代社会においては、どうしてもそのような機会が足りていません。
このような中で、何か目的を持たせてあげることが重要だと思います。企業の中で若い社員に、「何か社会に対してできることがないか探してみろ」と言っても、若い社員からすると何をやっていいのか分からなかったりします。そこで、例えば「企業の中で廃棄しているモノが沢山あるから、それをお金に変えたら、君たちの評価につなげる」などと具体的な提示をしてみる。それは別に必ずしも企業の収益につながらないものでも良いのではないかと思いますし、「メルカリ寄付」で寄付をして誰かを支えているというのでも良いかもしれません。
若い社員たちが、このような社会的な目的で集まることで、もっと自然な仲間になります。会社とは別に副業で3人5人と集まって「やってみようよ」というのはハードルが高いですが、社内にこのような仕組みがあれば、会社のためにもなるし、「社長も言ってるしやってみよう」という感じになるのではないでしょうか。社員も輪になりやすいですし、このような社会的な取り組みを促すような仕組みをメルカリが企業に提供していくことができればすごく良いと思います。
企業は、社員たちにチームワークを発揮してもらいたいと思っていますが、きっかけが「仕事だけでは難しい」という人は多くいます。最近また社内運動会や社員旅行を始めたという企業などもありますが、コロナ前と比べて状況は変わってしまっています。多くの企業はこのような福利厚生などに悩んでいますが、お金をかければ良いというわけではなく、今の若い人たちはむしろお金では動きません。もっと深いところでつながっていきたいという欲求があり、そのような仕組みを創ることが求められているのではないでしょうか。
そこにはビジネスチャンスもあり、企業も短期的な利益だけではなく、一歩踏み込んで取り組むことが重要で、そこを日本財団とメルカリで提案することができると思います。そういうことを一緒に広げていきたいですね。
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笹川 順平( Junpei Sasakawa)
日本財団専務理事。慶応義塾大学にて開発経済学を学び、1997年卒。卒業後は三菱商事株式会社で建築をはじめとしてODA等のグローバル事業経営に携わる。その後は2005年にハーバード大行政大学院卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2013年より株式会社ナスタ代表取締役社長に就任、製造業の改革を牽引する。2017年より日本財団常務理事に就任、経営企画広報およびドネーション事業を担当し、子どもの貧困対策支援や渋谷区との共同プロジェクトなどを率いる。2023年より全国初の本格的なオンライン大学(ZEN大学)の設立に向け責任者として教育改革を牽引する。2024年6月より現職。
インタビュワー
高橋 亮平(Ryohei Takahashi)
メルカリ経営戦略室政策企画参事 兼 merpoli編集長。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長。松戸市部長職、 神奈川県DX推進アドバイザー、千葉市アドバイザー、明治大学客員研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員、東京財団研究員、政策工房研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。