RaaSが切り拓くブランド公式リユースの未来—サーキュラーエコノミー実現への挑戦について聞いてみた(前編)

今回は、これまでも何度か記事でご紹介したメルカリで取り組んでいる「リコマース総合研究所(以下、リコマース総研)」の記事をmerpoliでも掲載させていただくことにしました。

「リコマース総研」については、以下の記事も合わせてご覧ください。

リコマース総合研究所--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

リコマース総合研究所(リコマース総研)、研究員の藤井 彩香です。

2025年1月に、「CEコマース業界のカオスマップを作ってみた~メルカリ・リコマース総合研究所×リユース経済新聞共同企画~」の記事を書きました。その中で、二次流通仲介やリユースなど、中古品に新たな価値を見出し市場に供給するサービスが中心となる「物品の利用期限を延ばす」というカテゴリーについて触れました。特に、「自社メーカーリユース」が注目されているという話をしました。

海外では、すでに「Patagonia(パタゴニア)」や「BALENCIAGA(バレンシアガ)」など、多くの有名ブランドが自社製品の収集を行い、リペア・メンテナンスを行った上で認定リユース品として販売・レンタルするサービスを展開し、新たな消費のスタンダードとして定着しています。さらに、リコマースを展開する海外ブランドの多くは、Resale-as-a-Service(RaaS)を提供するプラットフォーム企業と提携し、サービスを構築・運営しています。

今回は、日本発のRaaSプラットフォーム企業である「Free Standard株式会社」の取締役 野村 晃裕さんにお話を伺いました。

同社は、リコマースサービスの企画から収集・販売チャネルの構築、サプライチェーンの設計、オペレーションの運営代行まで、ブランドのニーズに合わせて一気通貫で支援する「Retailor(リテーラー)」を提供しています。

インタビューでは、RaaSがブランドのリコマース導入をどのように支えるのか、そのビジネスモデルの可能性についてお聞きしました。また、サーキュラーエコノミー実現に向けたリユース市場の展望についても、メルカリ・リコマース総研の所長・與田 祐樹と話を伺いました。

フリースタンダードが提供する「Retailor(リテーラー)」の概念図

 

大量生産・大量廃棄からの脱却ーブランドの持続可能な成長を支えるRaaS事業を始めたきっかけ

藤井 彩香 リコマース総合研究所 研究員(以下、藤井)> RaaS事業を始めたきっかけについてお聞かせいただけますか。どのような課題や市場の変化を踏まえて、この事業をスタートされたのでしょうか。

野村 晃裕 Free Standard株式会社取締役(以下、野村)> Free Standard株式会社は2020年8月に設立しました。張本と私の二人で立ち上げたのですが、当時はちょうど新型コロナウイルスの真っ只中でした。2020年2月末に緊急事態宣言が発令され、その後解除されたものの、コロナの影響がいつまで続くのか全く予測がつかない状況でした。

このようなタイミングで起業したため、まず最初に「どの市場で、どの課題を解決するのか」という点を徹底的に議論しました。張本は前職でファッションブランドを顧客として担当しており、コロナ禍において彼らが直面していた課題の深刻さを目の当たりにしていました。特に、店舗に人が来なくなったことで、大量の在庫を抱え、ブランドビジネス全体が大きなダメージを受けていました。日本のEC化率は約8%程度で、残りの92%はリアル店舗での販売が主流でした。しかし、そのリアル店舗が機能しなくなったことで、大手企業であっても経営が立ち行かなくなるリスクが生じたのです。

そこで私たちは、「この問題の本質は何か?」と考えました。コロナ禍という外的要因はもちろん大きな影響を与えましたが、根本的な原因は「作りすぎ」ではないかと気づいたのです。従来、大量に生産し、売れ残ったものを最終的には廃棄するというサイクルが続いていました。このモデルは産業革命以来100年以上変わっていません。しかし、これを変れば、企業は売上を伸ばしながらも不要な大量生産を抑えることができ、えるためには、単に販売方法を工夫するだけでは不十分で、バリューチェーン全体を見直す必要があると考えました。

もし、これまで生産されたものや捨てられていたものが新たな収益につながる仕組みが作れれば、単に「作る量を増やさなければ売上が上がらない」という従来の考え方を変えられるのではないか。リユースを実装し、それを事業の一部として成長させることができ資本主義の枠組みの中でも持続可能な経営が可能になるのではと考えました。

こうした課題意識をもとに、私たちはRaaSというビジネスモデルに取り組むことを決めました。

與田 祐樹 リコマース総合研究所 所長(以下、與田)>  LTV(Life Time Value)を延ばすことを、ビジネスの仕組みに組み込むという考え方ですね。

野村> その通りです。これまでLTVという概念は主に顧客との関係性に対して使われていましたが、私たちはこれを「モノ」にも適用できるのではないかと考えました。

與田> 事業を始めた際にも、モノのLTVを延ばすことを念頭に置きながら、ビジョンやミッションを定めたのでしょうか。

野村> ほぼ同時に近い感覚です。このスキームが世の中にどのような価値を持つのかを考えていく中で、結果としてモノのLTVを延ばすことに行き着きました。

 

リユース市場は今どう変わっているのかー企業と消費者のリアルな反応

與田 2020年から取り組まれてきたRaaSモデルですが、現在の市場環境や利用者の反応について、どのように感じられていますか。

野村>  企業側と消費者側では、それぞれ異なる手応えを感じています。特に企業側は、モノのLTVを延ばすという話に関して、これまで「作って売る」までが企業の役割であり、一度販売した商品は自社の資産ではなくなるという認識が一般的でした。しかし、最近ではリユースによって再度価値を生むという観点で、過去に販売した商品も自社の資産として捉えていいんだと考え始めています。

また、メルカリの広がりが企業の認識にも影響を与えています。メルカリが登場する前は、「やはり新品が主流」という考えが根強かったと思いますが、今では消費者がリユースを自然に受け入れていることが明確になっています。ブランド毀損もないと理解されており、企業の中でも受け入れやすいものになっています。

與田> 現在、インフレの影響で物価が上昇し、一つのモノに対するお客さまの支払い額が以前と比べて高くなっています。そうした中で、ちょっと割安感があり、手頃だけど品質の良い商品への関心が高まっています。企業側もそれを理解し、リユース市場に対する反応が徐々に変わってきているということですね。

消費者側の視点はいかがでしょうか。

野村> まだまだ認知度は低いと思っています。ただ、ブランド公式リユース品を購入された方々にアンケートを取ると、回答率が高く、満足度も高いという結果が出ています。ブランド公式だからこその品質がありながら、新品より価格がそこまで高くないため、安心感とクオリティの両方を兼ね備えていると感じています。

與田> 実際に、公式で販売されているからこそ、保証やメンテナンスなどが充実している点が、消費者からの良い反応につながっているのでしょうか。

野村> 全品、ブランドのガイドラインに沿ったメンテナンスを施しています。二次流通の商品として、こうした手入れがされたものを買える機会は意外と少ないんです。

ちょっとしたひと手間やふた手間ではありますが、それにもコストがかかります。ただ、その分、消費者の満足度にもつながっていると感じています。

與田> 購入後に満足されて、もう一度購入されるケースも多いのでしょうか。

野村> リピートはとても多いです。ただ、まだまだ認知度はこれからですね。

與田>  実際に手に取ってもらうことで商品の良さが伝わるということですよね。やはり、最初の一歩が大切ですね。

藤井> ブランド自体を知らなかった方々が、リユース品を手にすることで初めてそのブランドを知るケースも多いのでしょうか。

野村> ブランド公式リユース品をきっかけに、そのブランドを初めて知る消費者は比較的多いです。ただ、購入者の傾向を見ると、もともとそのブランドに憧れていたものの、新品は高くて手が出せなかった方が、リユース品を購入することでブランドの良さを実感するケースが多いですね。

また、一度離れてしまった方が、リユース品を通じてブランドに戻ってくる動きも見られます。企業の視点で言えば、広告は基本的に新規顧客の獲得が目的で、リピートを促進する手段は限られています。その中で、リユースが新たな接点となるのは、とても興味深いポイントだと思います。

藤井> リユース市場が新品の売上を阻害するのでは、という懸念はありますか。 それとも、二次流通があることで、裾野が広がるという受け止めでしょうか。

野村> リユース品の購入が当たり前になってきた今、企業もその流れに乗るべきだという意識が強まっています。意外と、新品購入とのカニバリゼーションは気にされなくなってきています。むしろ、実際にはブランドのファンを増やし、裾野を広げる効果があると認識されるようになっています。

続きは後編へ

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野村 晃裕(Akihiro Nomura)

Free Standard株式会社 取締役。2006年ワイキューブ入社。組織人事コンサルティング事業、ブランディングコンサルティング事業などの新規事業立ち上げを行った後、2011年にリンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー向け組織人事コンサルティング事業、ベンチャーインキュベーション事業、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」事業に従事し、2020年Free Standard設立に参画。グロービス経営大学院にてMBA取得。

インタビュワー

與田 祐樹(Yuki Yoda)

リコマース総合研究所 所長。青山学院国際政治経済学部卒業。大手印刷会社系列のITベンチャーを経て、2011年にグリー株式会社入社。ソーシャルゲームやスマホゲームの開発マネジメントやプランニングを担当。2015年に株式会社ファーストリテイリングへ入社し、PMとしてユニクロアプリやジーユーオンラインストアの開発を担当。2018年2月に株式会社メルカリ入社し、US版/JP版メルカリにてProduct divisionのマネージャーを担当。その後、メルカリ経営戦略チームに参画、ディレクター Head of Recommerce。2024年4月より現職。

藤井 彩香(Sayaka Fujii)

メルカリ経営戦略室政策企画、リコマース総合研究所研究員。2020年岐阜市役所入庁。上下水道事業部、市長公室で勤務。直近の市長公室秘書課においては、岐阜市長の出張手配、交際事務及び市政功労表彰をはじめとする各種表彰の事務に関する業務等に従事。2024年4月から2025年3月までメルカリに派遣研修中。経営戦略室政策企画に所属し、サーキュラーエコノミーへの移行におけるリユース・CEコマース推進とトレンド作りに関わる業務を担当。2024年11月には岐阜市「メルカリShops」の開設業務、2025年1月には岐阜市立則武小学校での出前授業に携わる。

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