減税訴えた元町議、1万円分配布の元副町長破る 愛知・武豊町長選

臼井昭仁 大西英正 吉村美耶
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 豊かな財政ゆえか、20年にわたりトップ選びは無投票だった。そんな町で起きた「1人1万円の応援券配布」か「減税」かをめぐっての町長選。「選挙モンスター」も参入した久々の選挙戦で示された民意は――。

 2005年以来の選挙戦となった愛知県武豊(たけとよ)町長選が20日、投開票された。無所属新顔同士の対決は元町議鳥羽悠史氏(40)が元副町長の近藤千秋氏(58)を破り、初当選した。当日有権者数は3万4649人。投票率は49.97%(05年は56.19%)だった。

 初当選を決めた鳥羽氏は選挙事務所で「みなさんの支援のおかげ。奇跡です」と喜びを爆発させた。僅差(きんさ)での勝利は公約の「住民税5%減税」が有権者に浸透した結果として、「来年度にも実施できるよう準備を進めたい」と述べた。

対立候補は1万円の生活応援券

 鳥羽氏は、ITコンサルタント会社の元経営者で、町議を辞めて立候補した。公約の柱に「住民税5%減税を実施して手取りを増やす」を据えた。町長給与を年1400万円から800万円に下げるとも約束。日本保守党河村たかし共同代表が名古屋市長時代に打ち出した政策に共鳴したといい、親密さをアピールしてきた。選挙戦中、「選挙モンスター」の異名をもつ河村氏も応援に入り、「公務員出身の首長が多い中で勝負している」と持ち上げた。

 立候補表明は3月と遅れたものの、前回町議選でトップ当選をしていたという知名度の高さもあり、無党派層や若者層を中心に支持を広げた。

 一方、近藤氏は町役場出身で、同じく町役場出身で町長を5期務める現職の籾山芳輝氏から後継指名され、昨年12月に立候補を表明。防災対策の強化、新たな工業団地の整備などの公約を掲げた。

 告示前には、「物価高騰に対して生活を支え、地域経済の活性化のため」を名目に町民1人1万円の生活応援券の配布も打ち出した。だが「ばらまき」と批判を受けた。

 選挙戦では、籾山町長らが中心となり、町議の大半、商工業者らが支援に回ったが、知名度不足は補えず、及ばなかった。

 武豊町は愛知県の知多半島中部にあり、1954年10月に旧武豊町と旧冨貴村が合併して誕生した。今年3月の町制70周年記念事業では、町と同名の競馬の武豊(たけゆたか)騎手が招かれた。

税収豊かで続いた「無風」

 愛知県武豊町では1989(平成元)年以降、町長の選挙戦があったのは同年と2005年、今回の3回だけ。無投票だった93年の選挙以降は、いずれも町役場出身者が町長となった。

 臨海部に火力発電所などの事業所、工場が並び、豊かな税収に恵まれた地方交付税の「不交付団体」で、人口はほぼ横ばいを維持。顕著な町政課題が多くはないため、「無風」が続いていたとみられる。

 20年ぶりの選挙戦に、飲食店を経営する女性(68)は「これからの武豊を考えるうえで選択できることは楽しみに思っていた」。パート女性(62)は「選挙戦になるのは良いこと。無いとマンネリになってしまう。考えをぶつけ合わないと政策がより良い方向にいかないと思う」と話した。

 武豊町長選の開票結果は次のとおり。

 鳥羽悠史 8647票

 近藤千秋 8522票

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この記事を書いた人
臼井昭仁
半田支局長
専門・関心分野
農林水産業、運輸、過疎問題