「好き」に出会う韓国旅
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ソウルで1カ月、暮らすような旅 ハングルはまだ読めないけれど

初の渡韓から半年ほどが経った頃、韓国好き仲間から「ソウルの友人が3カ月家を空ける間に住んでくれる人を探しているのだけれど、azamiちゃんどうかな?」と、思いがけないお誘いをいただいた。タイミング的に「1カ月なら行ける」と思い家主と交渉したところ、すんなりOKとのこと。とんとん拍子に2度目の渡韓はまさかの1カ月の短期滞在になった。韓国語は全くしゃべれないし、ハングルもまだ読めない。けれど韓国に住むSNSでつながった友人もいるし、韓国の人々の優しさを思い出せば、あまり不安はなかった。

公園の写真
滞在中にも訪れたお気に入りの公園「ソウルの森」。予定を詰め込みすぎない旅はのんびりとしていて、公園で写真を撮りながら歩き回る時間もとても楽しかった

出発の日はあっという間にやってきた。ほとんど予定も決めないままソウルに到着し、借りる部屋へ向かった。家主はもうソウルにはいないため、メールのやり取りで部屋への入り方を教わり入室。部屋は閑静な住宅地にあるマンションのきれいなワンルームだった。トランクを置いて、さっそくルームツアー開始。白を基調にしたインテリアに、大きなベッドに大きな机。シャワーのお湯の出し方も、洗濯機の使い方もわかりやすい。IHキッチンや置いてある用具も「好きに使って良い」と家主から言ってもらっていたので自炊もできるし、冷蔵庫も大きい。ぜいたくすぎるほどの部屋だった。

翌日はソウルに住む友人と再会してご飯を食べたり、部屋に追加で必要なものを韓国ダイソーに買いに行ったりして、私の「韓国生活」はのんびりとスタートした。

窓辺におかれたコーヒーとコーヒー豆の袋の写真
お気に入りの韓国のコーヒー屋「Fritz Coffee」で買ってきた豆を部屋にあったグラインダーにセットして、コーヒーをいれて朝ごはん。窓を明け、鳥の鳴き声を聞きながらとる朝食はなんとも心地よく、これから始まる1カ月にわくわくと胸が高まった

Wi-Fiのあるカフェは第二の拠点 韓国ではアイスアメリカーノ派に

早速だが、一番最初に「韓国生活」で困ったのはネット環境だった。借りている部屋にはWi-Fiが無く、旅行用のSIMは入れているものの容量制限になるのは避けたい。家の近所のカフェをいくつか検索して「Wi-Fiスポット探し」へ向かった。

まずは無難にカフェチェーン店に行ってみよう、と向かう途中、候補のひとつになっていたカフェの店先に座り込んでいる人がいるのが見えた。よく見ると、エプロンをした女性が猫に話しかけている。「やっぱりこの店にしよう」と方向転換し近づくと、女性はパッと立ち上がり「어서 오세요(オソオセヨ=いらっしゃいませ)」と言って店内に入っていく。猫は器に入れられた水を勢いよく飲んでいた。

店内はシンプルな内装の抜けの良い空間で、混みすぎずゆったりとした雰囲気。先ほどの女性店員に覚えたての韓国語で注文し、窓辺の席に座り、店先にいる猫を眺めながらアイスアメリカーノと食べ応えのあるスコーンを味わった。

韓国で飲むアイスアメリカーノはおいしい。日本にいるときはホットコーヒー派なのだが、韓国にいる時ばかりはアイス派になる。酸味の効いた韓国のコーヒーのブレンドはアイスに合うし、辛いものを食べた後に飲むスッキリとした味わいのアイスアメリカーノは格別においしい。ごくごくと飲めるアイスアメリカーノは、初渡韓の時から韓国滞在の必需品だった。半年ぶりに飲んだ味に「コレコレ」と帰ってきた気分になる。

アイスコーヒーとお菓子の写真
家の近所のカフェ。酸味のあるスッキリした味わいの韓国のアイスアメリカーノは、時々たまらなく恋しくなる。日本に比べて大きなサイズで提供されるのもうれしいポイント。チェーン店にはびっくりするほどメガサイズのコーヒーもある

結局その日、私はそのカフェに閉店まで居座った。程よい居心地の良さと、BGMでHONNEの「The Night」やkeshiの「drunk」といった一昔前の自分のプレイリストのような曲ばかり流れるのも気に入った。夜10時までやっている店には家族連れや、私と同じ目的なのか携帯を片手に何も喋らずにいる二人組、一人パソコンに向かう人々などが点々としていた。ふと、カフェは公共の場でもあるのだなと感じた。

その後も調べ物をしたい時や動画コンテンツを見たくなった時はこのカフェに駆け込んだ。最初こそ「困った」と思ったものの「韓国生活」の第二の拠点ができたようで、カフェ通い生活もそれはそれで快適だった。

カフェの写真
Wi-Fiを求めて行く先々でカフェに入った。狎鴎亭(アックジョン)での買い物中に立ち寄った「camel coffee」には、推しグループのアルバムが配信になり急いで聴きたくて駆け込んだ。Wi-Fi目的で入ったものの、おしゃれな雰囲気を楽しみながらアルバム1枚を最初から最後まで聞けて良い時間を過ごした

スーパーで買ったミールキットの正体は…キッチンで開封して判明

次に困ったのは食生活だ。さすがに1カ月丸々外食は、お財布的に厳しい。加えて、韓国はいわゆる「ひとり飯」の難易度が若干高い。数人で食べることが前提のボリューミーな料理も多いし、いわゆる「カフェ飯」のようなものもあまりない。カフェはお茶とスイーツを食べるところで、ご飯はご飯屋で食べるもの、と役割が分かれているように思う。「ひとり飯」に慣れていても、入りやすそうなご飯屋を見つけるのには若干苦労した。しかし、今回借りている部屋にはキッチンがあるではないか。ある休日、私は近所のスーパーを検索して買い出しへ出かけた。

旅行先のスーパーに行くのが好きだ。あまり日本では見かけない野菜や果物、調味料なんかを見るのは楽しいし、その国の生活感を感じられるのも面白い。ズッキーニのような見た目のエホバク(韓国カボチャ)や大好きなエゴマの葉が安く買えたのにはホクホクした。

ハングルが書かれた商品が並ぶスーパーの棚の写真
韓国のスーパーは手軽に調理できるキットもたくさん売られているのがうれしい。お気に入りは、そば粉の麺に韓国の辛味みそだれや野菜、のり、ゴマを絡めていただくマッククス

長い時間居座ったのは「チゲの素」がたくさん置かれているコーナーだった。スンドゥブの素の隣に並べられた、写真を見てもわからないチゲが気になる。パッケージに書かれたハングルを翻訳アプリで翻訳してみたものの、「チョングッチャンチゲ」と名前がわかっても味の想像は難しい。悩んだあげく、せっかくなので買ってみることにした。本当は卵が欲しかったのだが、30個パックしか売っていないので諦めた。こういったところにも、その国らしさが見えてくる。

帰ってキッチンに向かい、チョングッチャンチゲのパッケージを開封してすぐ、匂いで「あ、納豆だ」と思った。調べると、チョングッチャンは「大豆を発酵させて作られる韓国の伝統的なみその一種」とある。スーパーで買ってきた野菜と一緒に煮込んで作ったチョングッチャンチゲは、ピリッと辛味のある「納豆チゲ」のような味でとてもおいしかった。たまには名前の知らない料理にチャレンジするのも面白い。

スープの写真
「ピリ辛納豆チゲ」といった味わいのチョングッチャンチゲ。韓国にも納豆と似た文化があったのかと驚きつつ、納豆好きとしては韓国でもなじみのある味が食べられることにうれしくなった。いつかお店でも食べてみたい

商店街では指さしで買い物 熱々のマンドゥをいただく

この旅の中で思い出深い味がもうひとつある。家の近所の商店街で出会ったマンドゥ(韓国のギョーザ)だ。地元の人々でにぎわう商店街は、活気にあふれていた。野菜が山ほど積まれた八百屋からは威勢の良い声が飛び交い、湯気があがるオムク(韓国のおでん)屋の前では、おばさまが立ち食いでオムクを頬張っている。古風な美容室の前には動くのかわからない古びた子供の乗り物が置かれていて、商店街放送なのかそこそこの音量でABBAの『Dancing Queen』が鳴り響いていた。

商店街の写真
グローバル企業の社屋などが並ぶ龍山(ヨンサン)エリアの裏手の方にある龍山龍門(ヨンムン)伝統市場。八百屋や肉屋、おかず屋などに並び、オムクやトッポッキなどが食べられる粉食屋などおやつを提供するお店も多い

おなかがすいたので何か買って帰りたい、けれど韓国語ができないので難易度が高そう…とひよっていたのだが、ふと一軒の店に目が止まった。クァベギ(ねじり揚げパン)や総菜パン、マンドゥが山積みになっている。テイクアウトの店なら挑戦できるのではと思い、店先のおばさまにマンドゥを指さし、私の数少ない言える韓国語「이거 하나주세요(イゴ ハナジュセヨ=これを一つください)」と言った。おばさまは「네(ネ〜=はい〜)」と言い、手際よく容器の中にマンドゥを八つ詰めると、私に何かを聞いてくる。

どうしよう、わからない。私がオロオロしているとおばさまは「あぁ、あぁ」と言いながらうなずいて、そのままマンドゥを詰めた容器を背後の鍋に入れてふたをした。鍋から湯気が出ていたので、どうやらマンドゥを蒸しなおしてくれるらしいと悟って「カムサハムニダ」を伝えた。

ハングルが書かれた総菜屋さんの写真
おいしそうなマンドゥに引かれたヨンムン伝統市場の「ビジョンギョーザ」。奥の鍋でマンドゥを蒸し直してくれる。その間にクァベギも食べたくなって一つ頼んだら「一つで1,000ウォンだけど三つでも2,000ウォンだよ」と言われ、結局三つ買う

マンドゥ屋のおばさまはその後も韓国語のわからない私に話しかけ続けた。聞き取れた単語から「どこから来たの?」と聞かれたと察し、私は全然ない韓国語の知識をなんとかひねり出して「저는 일본사람입니다(チョヌン イルボンサラミムニダ=私は日本人です)」と答えた。おばさまは私の目をずっと見たまま、優しく笑ってまた何かを言ってくれた。今度は何もわからなかった。それでも、何か優しい言葉をかけてくれたことはわかって「カムサハムニダ」を伝えた。会話は終わってしまったが、おばさまは笑顔でうんうんとうなずいていた。

それから待つこと3分ほど、熱々になったマンドゥを蒸し器から取り出して見せてくれた。「맛있겠다!(マシッケッタ=おいしそう!)」と言うと、おばさまは満足そうに笑った。

蒸し直してくれた熱々のマンドゥを食べようと思い、急いで近くの公園に移動した。大きなまんじゅうほどのサイズのマンドゥは、箸で持つとずっしり重い。一口食べてみると、手作りらしい皮はモチモチで、見た目に反して薄皮。中にはひき肉、ネギと細かく刻んだ春雨がパンパンに詰まっていて、ものすごく食べ応えがあった。しょうゆベースのタレは甘辛で、ビールに合いそうなお味。おばさまとのやりとりを思い返しながら、おいしくいただいた。

容器に入った韓国のギョーザの写真
ビジョンギョーザのマンドゥとクァベギ、おまけで付けてくれたタンムジ(たくあん)。写真だとサイズ感が伝わりにくいが、かなり大きい。一気には食べられないほどのボリュームだったけれど、翌日ごま油で焼いて食べてみてもおいししかった

そんな「暮らすような旅」も1カ月の中ごろになるとすっかり「生活」にルーティンができた。借りている部屋も「自分用」に色々整えられてきた頃、この旅にゲストがやってきた。日本から母が遊びにやってきたのだ。つづく。

暮らすような旅で出会ったソウルはほかにも(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)

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