変わる米国社会への警鐘? 映画「ウィキッド」緑の魔女が抗うものは
映画表象とレイシズムを研究する柴崎小百合さん寄稿
第97回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞など主要を含む10部門でノミネートされ話題をさらった米ミュージカル映画「ウィキッド ふたりの魔女」(2024年)が、日本でも今年3月に劇場公開された。ブロードウェーで2003年に幕を開けて以来世界中で大ヒットしている舞台版ミュージカル「ウィキッド」の映画化である。世界的な歌姫アリアナ・グランデの出演も世間をにぎわした。
この二つの作品は、グレゴリー・マグワイアのベストセラー小説『ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語』(1995年)を原案にしている。これは、L・フランク・ボームの誰もが知る児童文学『オズの魔法使い』(1900年)のスピンオフともいえる作品で、『オズの魔法使い』に登場する全身がエメラルドグリーン色のヴィラン「西の悪い魔女」に声を与え、彼女の視点からストーリーを語らせ直した物語である。今回の映画版では、マグワイアの小説を原案としながら、物語や設定が大幅に改変されている。
筆者はこれまで、アメリカ社会の深い闇であるレイシズムをアメリカ映画がいかに描き出しているかに着目してきた。舞台版ミュージカルの「ウィキッド」について、肌の色ゆえに差別され、排除されるといったエルファバの表象に、現実のアメリカ社会における黒人への人種差別やその歴史が投影されているのではないかと指摘した。一方、今回の「ウィキッド ふたりの魔女」は、アメリカの正義や民主主義の理想を転覆しようともくろんでいるかのようなドナルド・トランプ米大統領とその政権へ対する批判といった側面が色濃いように思える。
成長物語 深層にある政治的メッセージ
くしくもこの映画の撮影期間は、多様性を否定し分断を助長するような発言を繰り返すトランプの返り咲きが、次第に現実味を帯びてきた時期とちょうど重なる。さらに、全米の公開日にいたってはトランプが大統領選挙で勝利してからわずか数週間後という絶妙なタイミングであった。よって本稿では、表面上はおとぎの国に住む魔女たちの成長物語に見えるこの映画を、深層にはもっと重い政治的なメッセージが隠されているのではないかといった視点から読み解いてみたい。
「ウィキッド ふたりの魔女」では、緑色の肌ゆえに周囲から疎まれる孤独なエルファバ(シンシア・エリヴォ)と、すべての人から愛されたいと望むグリンダ(アリアナ・グランデ)が、魔法の国オズにあるシズ大学で出会い、反発しあいながらも互いの違いを乗り越えて深い友情で結ばれていく。
この映画でまず目を引くのが…
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- 【解説】
映画に限らず、フィクションは、現実の社会や政治の現実を、SFやファンタジーなどの意匠を用いて、分かりやすい「モデル」として提示し、理解させてくれる性質を持っています。現代のハリウッド映画のエンターテインメントでは、特にディズニー(マーヴェ
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