第3回「人権侵害。差別です」 コロナで住民パニックに、保健所は訴えたが

有料記事

辻外記子
[PR]

 新型コロナウイルス感染症が流行し、差別や偏見が広がりました。過去の感染症などの経験から、差別や偏見が負の影響を及ぼすと知っているはずなのに、また生じたのです。どんな実態だったのか、次への教訓は何か。熊本県内の保健所で、コロナ患者と向き合い続けた医師の劔(つるぎ)陽子さん(55)に聞きました。

保健所長・医師 劔陽子さん

 ――2020年春、当時勤めていた保健所管内の医師のコロナ感染がわかり、住民がパニックになったそうですね。

 管内ではまだ感染者がいなかった頃です。ある病院の医師が感染したとの情報が広がり、保健所の電話は鳴り続けました。

 「感染した医師が勤める病院のスタッフが町を歩いている。保健所が注意しろ」「その病院スタッフの家族が、○○で働いている。出勤停止にしろ。スタッフの子どもは保育園で預かれない」

 保健所職員たちが「落ち着いてください。そんなことを言うのは人権侵害です。差別です」と必死に訴えました。しかし、パニックに陥った人たちは聞いてはくれません。

 感染した人がいた場所に行くことで感染するわけではない、と伝えたいのに伝わらない。感染者を責めるような言動は過度な恐怖心をあおり、感染から人々を守れない。差別偏見は逆に助長されてしまう。

 我々は結核やエイズで体験して学んできたはずなのに。ましてやここは熊本県。ハンセン病や公害が原因の水俣病の経験から、同じ轍(てつ)を踏むまいと誓ったのではなかったのか。何も学んでいないと思わざるを得ませんでした。

フルネーム答えさせられ恐怖

 ――その後も大変な状況は続きました。

 電話は連日、保健所にかかっ…

この記事は有料記事です。残り2500文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
辻外記子
くらし科学医療部長代理
専門・関心分野
医療・ケア、医学、科学
  • commentatorHeader
    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2025年4月5日11時0分 投稿
    【視点】

    この記事の執筆動機は、自戒の念、と文中にある。コロナ期に保健所をきちんと取材していなかった、最前線の現場の苦闘を十分には見ていなかった、という反省。私が読んだデジタル版では残念ながら記者名が記されていないのだが、自分の失敗を後から反省するこ

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2025年4月5日14時40分 投稿
    【視点】

    コロナの恐怖に<心>が感染して、単純なルールを絶対視してしまうことがコロナ対応を難しくしていたことがよくわかる記事だ。地域レベルや現場レベルで、色々なやり方を試すなどして独自の取り組みやその検証が進んでいたこと。そんなばらばらのように見えて

    …続きを読む