クラシックギタリスト・村治佳織さんが語る「ミロ展」

まるで音楽が聞こえてくるようです。
太陽や星、月、女性などを記号化し、流れるような曲線で結んだ代表作の絵画の数々は、楽譜のようにも見えます。スペイン・カタルーニャ州生まれの画家、ジュアン・ミロ(1893~1983)は独特の作風で知られ、同郷のピカソと並ぶ20世紀の巨匠です。バッハやモーツァルトなど、音楽も愛し、詩情あふれる絵画や陶芸、彫刻を残しました。東京都美術館(上野公園)では「ミロ展」を開催中。同展のイベントで、スペインの曲を中心にリサイタルを開いたクラシックギタリストの村治佳織さんにミロの魅力を聞きました。
光・青空・赤土……よみがえるスペイン暮らし
スペインを愛する村治さんは、マドリードで暮らした経験もあります。「スペインといえば、強い光や青空、赤土を思い出します。旅で訪れたカタルーニャはガウディの建築にも見られるように、曲線の美しさが印象的でした」と言います。

こうした赤土や青い空に彩られた「ヤシの木のある家」(1918年)は、ミロが20代のころ、カタルーニャ州の農村モンロッチで描いた風景画です。「スペインらしい風景で、小さな葉や白い花まで緻密(ちみつ)に描かれていますね。誰も目にとめない雑草にも目を向けるのはミロの素晴らしい感性です。子供心を忘れずに大人になるというのにあこがれますね」と村治さん。ミロも「ひとひらの葉は、木や山と同じくらい優美だ」と手紙にしたためていました。
初期は色彩豊かな風景画を描いていたミロですが、1920年にパリを訪れて以降、前衛芸術から刺激を受けます。シュルレアリスムの芸術家や詩人たちと交流を重ね、作品は事物を記号化した独特な画風へと変化していきます。

リュートを奏でる人が登場する「オランダの室内Ⅰ」(1928年)は色彩も豊かでにぎやかな感じです。古典絵画の「リュートを弾く人」(1661年)をもとに描かれていますが、ミロの手にかかると、一変し、遊び心満載になります。猫や骨をくわえた犬、カエル、白鳥、コウモリまで登場。躍動的で楽しそうです。
「かわいいし、シュール」と村治さん。「古典作品を尊重しながら、ミロらしい作品に仕上げていますね。クラシックギターでも、基礎をしっかり身につけて、そこから違うテクニックを生み出していくというところが似ています」

ミロが第2次世界大戦の戦禍を逃れ、欧州を転々としながら生み出した傑作は「星座」シリーズです。女性や鳥、星、はしごといったモチーフがミロ独自の記号化された形で頻繁に登場、音楽的な滑らかな曲線で結ばれ、神話的な世界を創出しています。
村治さんは、会場で「明けの明星」など、戦時下の1940年に描かれた3点に見入っていました。「戦争に翻弄(ほんろう)された時でもミロは純粋に作品に向き合い、夢の世界に入っていくことができたのですね」。ミロの「『星座』を描いている間、本当に密(ひそ)かに作業をしているという感覚がありましたが、それは私にとって解放でもありました」という言葉が展示されていて、心に響いたそうです。
村治さんイチオシ 孫に捧げたカラフルな作品

さて、村治さんが大好きな作品は、ミロが孫に捧げた「絵画(エミリ・フェルナンデス・ミロのために)」(1963年)です。赤や黄、緑などの鮮やかな色に鳥や星などのモチーフ。村治さんは「孫への優しさが伝わってきます。いろんな色が使われていてカメレオンみたい!」とイチオシです。
ミロは、戦後ニューヨークに滞在し、米国抽象表現主義の若い芸術家たちにも影響を与え、同時に刺激を受け取りました。80代になっても型破りな挑戦を続けました。大胆な「焼かれたカンヴァス2」(1973年)は白いカンバスに勢いよく絵の具をたらし、したたらせ、踏みつけ、ナイフで切り刻み、ガソリンを染みこませて火をつけて制作しました。絵画を投機の対象とする価値観への反発を示したそうです。「ロックな感じがします。熱いですね」と村治さん。立て掛けたカンバスに絵の具を飛び散らせ、したたり落ちる絵の具の跡に筆を入れた大きな三連画「花火Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」(1974年)は墨絵のようです。

型破りに共感「晩年、ミロはより自由に」
即興の演奏も楽しむ村治さん。絵の具のしたたりやしぶき、筆の跡など、即興が生み出す表現の面白さにも見入っていました。「年をとるにつれ、肉体は衰えていきますが、ミロの精神はどんどん解放されていったのでしょうね。余白の美や遊び心もプラスされ、より自由に描けるようになっていったのだと思います」と話します。

村治さんもリサイタルでは、ゲーム音楽や、オリジナルの前奏を加えてアレンジした「禁じられた遊び」も披露。自作の「エターナル・ファンタジア~薬師寺にて」でも観客を魅了、数々の挑戦を披露しました。「作風を変え、挑戦し続けたミロから、スタイルを変えていってもいいんだよというメッセージを受け取りました」

明るく遊び心いっぱいのミロの作品。村治さんは「展覧会でミロのいいパワーを受けると、自分の中のいいチャンネルが開くと思います。自然体で力みがないのがミロの良さ。私もおばあちゃんになってもギターを弾き続けたいですね」と夢を語りました。
◆作品はいずれも © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 E5746
むらじ・かおり クラシックギタリスト。1978年、東京都生まれ。15歳でCDデビュー。パリ留学から帰国後、積極的なソロ活動を展開。2003年、英国の名門クラシックレーベルDECCAと長期専属契約を結ぶ。出光音楽賞、ベストドレッサー賞、日本ゴールドディスク大賞など受賞歴多数。CM、テレビ、ラジオなどでも活躍。今秋発売予定の新作アルバム制作中。
- 会場:東京都美術館(上野公園)
- 主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、ジュアン・ミロ財団、朝日新聞社、テレビ朝日
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会期:開催中〜7月6日(日)
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開館時間:午前9時30分~午後5時30分、金曜は午後8時まで
※入室は閉室の30分前まで -
休室日:月曜、5月7日(水)
※4月28日(月)、5月5日(月、祝) は開室 - 観覧料:一般2300円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1600円。18歳以下、高校生以下無料
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問い合わせ:ハローダイヤル 050・5541・8600
■展示作品、会期、展示期間、開館日、入館方法等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
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