■特集:塾・予備校選び
受験生にとっては欠かせないツールの1つが、模試です。うまく使いこなすには、模試の目的を理解しておくこと、自分の志望校に合った模試を選ぶことが大事です。模試の効果的な活用方法について、専門家に聞きました。(写真=Getty Images)
共通テスト模試は“他流試合”を
大手予備校などが、それぞれ独自に実施している模擬試験(模試)。試験結果から全国レベルでの偏差値や志望校の合格可能性がわかり、自分の立ち位置を知ることができます。駿台予備学校で長年、入試情報責任者を務めてきた石原賢一さんは、「模試はペースメーカーとしての役割も大きい」と話します。
「自分の日々の学習がどの程度進んでいるのか。年に数回受ける模試が、それを確認するチェックポイントとなります」
模試の出題範囲は高校の履修状況に合わせているので、夏休みまでは基本的には高校で習っているはずの範囲が出題されます。一方、秋以降の模試は、各予備校などが総力をあげて本番の試験を予想し、問題を作成しています。
全国規模の模試は、河合塾、駿台予備学校、代々木ゼミナール、東進ハイスクール、ベネッセコーポレーションが実施しており、一部は共催もあります。模試の種類は、大きく分けて「共通テスト対策模試」「記述式模試」「大学別対策模試」の3つがあり、それぞれ目的が異なります。
大学入学共通テストを想定して実施されるマークシート方式の模試です。国公立大志望の人はもちろん、私立大志望でも共通テスト利用方式の入試を受ける場合に役立ちます。下の表のように、各予備校などが高3向けに年に2~5回実施しています。ベネッセや河合塾の模試は、多くの受験生が在籍高校で一括受験しています。
「共通テスト模試を活用するポイントは、主催が異なる複数の模試を受けることです。高校で受けている模試は主催が毎回同じであることが多いと思いますが、新課程で新しくなった共通テストはまだ黎明期です。問題の傾向が定まっていないので、高校で受ける模試とは別に、“他流試合”をしておいたほうが安心です」(石原さん)
模試を複数受けるのは大変なことですが、最近は自宅にいながらオンラインでの受験も可能なものが増えています。
「ただし、高校でみんなで受けることが多い共通テスト模試の場合、大学進学を希望していない生徒も受験します。偏差値だけではなく、自分がどれだけできたのか、点数を重視すべきです」

※日付は公開会場での実施基準日(地域によって異なる場合あり)
※ベネッセコーポレーションの模試は、駿台との共催模試を除いて学校一括受験のみ
※東進ハイスクールの模試は、高1・2生も受験可能
(図=各主催者のホームページ等で公開された情報をもとにまとめた石原さん提供のデータをもとに編集部で作成)
国公立大の2次試験や難関私立大の個別試験を想定した模試です。レベル別になっており、主に旧帝大や医学部の2次試験を想定した「ハイレベル」と、それ以外の「標準レベル」に分けられます。

旧帝大や難関私立大など、各大学の出題傾向に合わせた問題が出題されます。自分が志望する大学の模試が実施されていれば、参考になります。
「大学別模試はその大学を志望している受験生が受けるので、ほかの模試に比べて自分のレベルがどの位置にあるのか、正確にわかります。この模試で出る偏差値や合否判定結果はしっかり意識したほうがいいでしょう」
私立大専願者向けの模試はない!?
模試の種類を知ると、共通テストを利用する予定のない受験生や、私立大志望で自分の志望大学の対策模試がない場合には、参考になる模試がないことがわかります。こうした学生は、どの模試を受ければいいのでしょうか。
「共通テストの前身のセンター試験は、マークシート方式の私立大の独自試験と出題傾向が重なっていたので、センター試験対策模試が参考になりました。しかし、現在の共通テストは同じマークシート方式でも私立大の独自試験とは学力を判断する視点が大きく異なります。そのため、私立大専願の受験生は共通テスト模試を受けたとしても、合格可能性など細かいところまでは気にしなくていいでしょう」
もちろん、共通テスト模試でも学力の相関性はあるので、自分の学力を知る目安にはなります。
「私立大専願の受験生は、共通テスト模試で学力をチェックしつつ、合格可能性に関しては、志望校の過去問で合格最低点を取れているかどうかを確認するほうが参考になります。そのほか、東進ハイスクールが実施しているマークシート方式の『大学合格基礎力判定テスト』は、各科目の基礎力を測る模試なので、難関大を除く基礎学力を重視する私立大の独自試験に近いといえそうです」

もう1つ、知っておきたいのが、最近の「年内入試」の増加による模試への影響です。国公立大、私立大ともに総合型選抜や学校推薦型選抜を実施する大学が増え、半数を超える受験生が「年内入試」で入学するようになっています。
「11月以降の模試は、年内入試(特に学校推薦型選抜)の試験日程と重なるので、年内入試を受験する受験生がごっそり抜けます。その結果、比較的に学力上位層中心の母集団となるため、偏差値が少し下がる受験生もいますが、こうした背景を知って、偏差値が少し下がったとしても気にしすぎないことが大事です」
模試の振り返りが大きな差に
石原さんは、模試を有効活用するために最も大事なことは、「模試を受けたあとの振り返り」と言います。
「模試を受けた当日か翌日くらいの記憶が新しいうちに、自己採点をしながら見直しをすることです。さらに答案が返ってきたら、解説をしっかり読んで、間違えた問題をノートにまとめましょう。最近は答案や解説がデジタルで返却されるので、コピー&ペーストで効率よく自分だけのオリジナル参考書を作れます。このノートを入試直前に見直すと、短時間で自分の弱点をチェックできるので役立ちます」
実際には、模試を受けて結果を確認するだけという受験生も少なくないかもしれません。
「もちろん、模試を受けたことだけでも意味はあります。問題を解くために一生懸命考えたことは、自分の力になっているはずですから。ただ、そこで終わらせるか、きちんと復習するかという、その積み重ねが大きな差になっていくことは間違いありません」
模試の結果は、日ごろの頑張りの評価でもあるので、一喜一憂してしまいがちです。しかし、結果そのものよりも、解けなかった問題やミスした問題をしっかり確認して、自分の弱点を把握することが模試を有効活用するカギといえそうです。
石原賢一(いしはら・けんいち)/教育ジャーナリスト、大学入試アナリスト。京都大学工学部卒。1981年学校法人駿河台学園駿台予備学校に入職。高卒クラス担任、高校営業、講師管理・カリキュラム編成、神戸校校舎長などを歴任したのち、2006年から18年間入試情報部門の責任者として各種マスコミへの情報発信、大学、高校での講演などを数多く担当。24年3月に退職し、現在は43年間にわたる予備校での経験を生かし、少子化が進むなかで大きな岐路に立っている高大接続の現状や今後についての分析、発信を行っている。
(文=中寺暁子)

【写真】受験のプロに聞く 模試の上手な受け方とは? 「共通テスト模試は、複数の模試を受験して」
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