なぜ〝うっとり〟ロイホの思い出を語るのか ファスト風土論の現在地

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哲学者・谷川嘉浩=寄稿
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Re:Ron連載「スワイプされる未来 スマホ文化考」(第7回)

 「先生、知ってました? ロイホでポテト頼むとフォークと一緒に出てくるんですよ。ちょっと上品すぎて、さすがに声が出ました」

 地元にロイヤルホストがなかったので、その存在を認識したのは大学に入ってからだった。学生からそう言われて、そういえばしばらくロイホに行っていないなと思い、わざわざフライドポテトを食べに行った。注文して出てきたのは、ファストフード店やファミリーレストランのものと比べても、かなり大ぶりなフライドポテト。

 言われた通りフォークが出てきたけれども、あまりに長くてフォークで食べるには難儀した。しばらくフォークを使ってみたが、結局は手を使って食べた。もう一つ印象的だったのは、ケチャップとは別に、アイオリソースがついていること。マヨネーズのような乳化したソースの一種で、にんにくがたっぷり入っていて、つけると野性味が増した。

 ロイヤルホストというと、サイゼリヤなどのファミリーレストランと比べて、値段設定が高く、普段行く外食よりは少し特別で、かといって高級店ではないというラインを行っている。ロイホユーザーは、日常の中の「少し特別」を求めているところがあるのだろう。さきほどの事例だと、フライドポテトの大きさ、フォーク、アイオリソースが、そういう「少し特別」を生み出す小道具だったと言えるかもしれない。

 2025年1月に出版された『ロイヤルホストで夜まで語りたい』(朝日新聞出版)は、ロイホでの「少し特別」な体験を17人の執筆者が思い出とともに振り返ったエッセーが収録されている。最初は、平野紗季子、宇垣美里、稲田俊輔、ブレイディみかこ、と続く。すでに盤石の布陣といった感じがするが、本文には、温又柔、古賀及子、宮島未奈、能町みね子、柚木麻子までいる。

 みなが楽しそうに、……というか、どこかうっとりした様子で、ロイホの話をしている。おすすめのメニューの話はもちろん、創業者の話をはじめとするロイホの知られざるエピソードや、個人的な思い出をやけに“うっとり”振り返っていて、さすが文筆家というか、情景が思い浮かぶので、こちらも思わず行きたくなってくる。

 実際、稲田俊輔が「食いしんぼうのシェフサラダ」でビールを飲むという話をさらっと書いていて、「おっ、なんかいい」と思ってその日に試したら最高だった。その流れで、そう遠くない日に、平野紗季子のおすすめを、じゃあ次は……と立て続けのロイホ通いをしてしまったくらいだ。それまでロイホにほとんど行かなかったのに、もうすっかりファンになった。そういう意味で、この本はいいロイホ入門でもある。

否定的に論じられていた 均質化の代表格

 だが、待て。ロイホをはじめとするファミレスは、一昔前の都市論・郊外論では目の敵にされていたはずだ。

 ファミレスは、景色を均質化…

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