出生地主義の制限 「アメリカ」はどう変わるのか 望月優大さん寄稿

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ライター・望月優大=寄稿
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Re:Ron連載「望月優大 アメリカの観察」第1回

これまで日本における移民や難民のテーマに取り組んできたライターの望月優大さん。昨年からニューヨーク在住となり、変わりゆくアメリカ社会を現地から見つめている。アメリカはこれから、どこへ向かうのか。定点観測しながら、考える。

 1月20日の第2次政権発足直後から、アメリカのドナルド・トランプ大統領は大量の大統領令への署名を開始した。その中には、アメリカ国内で生まれたほぼ全ての子どもに対して、出生に伴い自動的にアメリカ国籍を付与する「出生地主義(jus soli/right of soil)」の制限も含まれる。

 トランプは、アメリカでの滞在資格をもたない「非正規移民(いわゆる不法移民)」に対する「史上最大の強制送還」をうたっている。そして、非正規移民の親から生まれた子どもたちを出生地主義の対象から外してしまおうというのが、大統領令の主な趣旨だ。

 加えて、あまり注目されていないのだが、この大統領令では、非正規移民だけでなく、永住資格を持たない外国籍者、つまり観光客や留学生、就労ビザでの滞在者なども、出生地主義の例外化のターゲットになっている。実は範囲がきわめて大きい。

「生まれた国から追放され得ない権利」日本は

 理解を助けるために日本と比べてみよう。

 日本のように、主に「血統主義(jus sanguinis/right of blood)」で国籍を付与している国では、両親のいずれとも日本国籍を持っていない場合、その子どもに日本国籍が付与されない。つまり、移民の「2世」を日本国籍から排除し、外国籍者のままにとどめている。

 そのため、外国籍者同士の両親を持つ子どもたちは、日本国籍の親を持つ子どもたちと全く同じように日本で生まれ育った場合であっても、様々な権利の束から締め出されてしまう。例えば、法的には就学義務の対象外となり、大人になっても参政権がない。そして究極的には、「自分が生まれた国から追放され得ない権利」がない。

 日本国籍を持って生まれた大多数の人々にはなかなか見えず、意識もされないが、日本による朝鮮や台湾などの植民地支配に由来する「オールドカマー」の子孫に加え、戦後、特にバブル期前後から現在に至るまでに来日した数々の「ニューカマー」の2世たちの多くは、在留資格ごとの違いはあれど、こうして様々な権利の薄められた状況に今も置かれている。

 アメリカの憲法(修正第14条)に埋め込まれた出生地主義の原理には、出生時点で子どもたちの間に生じうるこうした排除や線引きを制度的に抑制する効果がある。これにより、現在のアメリカでは国外から移動してきた人々につながる2世以降が、ほとんどみな出生時点からアメリカの国籍を持ち、「アメリカ人」となる。インド出身の母とジャマイカ出身の父を両親とするカマラ・ハリスのように、大統領選に立候補することもできる。

 この大原則に手をつけることは、大げさではなく、「アメリカ」という国のあり方に直結する。

 出生地主義に異を唱えること…

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