第7回「守ってあげられなくてごめん」届かぬ思い託す島 娘の宝物と生きる
亡くなった大切な人へ。未来の自分へ。
会えなかった我が子へ。
届けたい、けれど届け先がわからない手紙を受け付ける郵便局が瀬戸内海に浮かぶ島にある。漂流物が流れ着く浜辺にたとえた名を、「漂流郵便局」という。
香川県三豊市の港から船で15分の小島、「粟島」。港から歩いてすぐの場所に白壁、瓦屋根の局舎は立つ。
「局長」の中田勝久さん(89)は、かつてこの建物が「本物の郵便局」だった時代にここの郵便局長だった。いまはボランティアで手紙を、はがきを受け取り続けている。
中田さんには、記憶に残るはがきがある。
天国からほめてあげて
届き始めたのは2015年だった。いつも、「Yさんへ」と娘の名前の呼びかけで始まり、「お母さんより」で終わる。
《昨日、子供達(たち)がテストで100点をとったと喜んで学校から帰ってきましたよ。2人共(とも)、真先にママに!と言って仏壇に置き、ママの写真に見える様(よう)に広げていました。Yさん、天国からほめてあげてくださいネ》
2人の子を残して30代で亡くなった娘に呼びかけるはがきは、毎日のように届いた。
《今晩の豚の生姜(しょうが)焼き、美味(おい)しかったですか?明日はYさんの好きだった茶碗蒸(ちゃわんむ)しを作ろうと思ってます。海老(えび)大好きなYさんには特別に2匹入れますネ♡》
《この1年ちょっとで子供達(たち)も随分たくましくなった気がしますが時々淋しそうに仏壇の前に座っている後ろ姿を見ると切なくなります》
《お母さんももう61歳です。とても子供達のママにはみられないのでせめて学校に行く時はしっかりメークして2~3才は若く見られる様に努力してますよ》
娘の夢を見た日にはこうつづっていた。
《「Yは死んでもうここには居ないんだよ」と言われお母さんは大声で泣いて自分の泣き声で目を覚ましました。(中略)Yさん!ごめんね。あなたを最後まで守ってあげられなくって、お母さんを許してネ…》
中田さんは「一日子どもたちの世話をして学校行かせて食事させて洗濯して、やれやれというときに、娘さんに報告を書き、送ってきたのでは」と推測する。
中田さん宛てに届いた手紙
手紙が100通を超えたある…
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