第39回地震に豪雨で「大丈夫なわけないやんか」 筆だから表せる、私の本心

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黒田陸離
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 筆の種類や持ち方は自由だ。寝転がって書いてもいいし、時には字をまちがえたって構わない。

 京子さんが「筆文字」に出会ったのは、40代に入ったころだった。

 結婚を機に京都から能登へ。2人の息子に恵まれたが、仕事や家事に追われて心身ともに調子を崩していた。

 そんなとき、長男の同級生のママ友・みなっちさんが開く筆文字教室に誘われた。

 筆文字? 書道?

 「お手本やルールはありません。きれいに書くことが目的ではなく、自由に表現していい」。みなっちさんの言葉に初めこそとまどったが、文字を書くたびにひかれていった。

 筆ペンを持ち、いま心のなかにある思いを言葉にする。うれしさやかなしさ、苦しさを自分の言葉で表す。そのときの感情によって線の形や細さ、色の濃淡も変わる――。

 言葉を口に出して伝えるのが苦手だという京子さんも、気づいたときには次々に筆を走らせていた。

 〈つまづいてもいい でっかく生きよう〉

 〈自分が思いこんでるよりも 自分って意外とひとりぼっちじゃないんだよ〉

 書いた文字を眺めていると、はっきりわかっていなかった自分の気持ちに気づく。

 「筆文字ケア」。京子さんは心が少し楽になることからそう名付けてみた。

 イラストを添えて、メッセージカードやキーホルダーも作るようになった。

真っ暗な避難所で、子どもたちと

 2024年元日。筆文字を始めて5年ほど経っていた。京子さんが住む地区は震度7の揺れに襲われた。

 京子さんも家族とともに、近くの保育所へ避難した。

 停電に断水、通信手段は不安定。支援物資も1週間ほど届かなかった。「被災情報は全国に伝わっているはず。なぜこんなにも助けに来てくれる人がいないのか」と不安にかられた。

 同じく避難した母親たちはぼうぜんと座り込んだまま。その顔を子どもたちが不安そうにのぞき込んでいる。そんな時間が何日か続いた。

 そこで自宅に残っていた筆と紙を持ち出し、周りにいた親子に筆文字を書いてもらった。

 思いがあふれ出した。

 〈いつもとおなじくらしにも…

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この記事を書いた人
黒田陸離
大阪社会部|府警担当
専門・関心分野
地方取材、スポーツ、平和、人権
能登半島地震

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