落ちた天才、覚悟の「基礎工事」 スキャンダル経て再びめざす世界一

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藤木健
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 めざすのは頂点ではなく、もっと先。

 そう言わんばかりの姿だった。

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 4月にあった競泳の日本選手権。瀬戸大也(28)は、男子400メートル個人メドレーを4分7秒92の好記録で制した。圧勝だった。2020年1月にマークした4分6秒09の自己ベスト更新も、「今季中にはいけるなって感じる」。今はただ、7月に福岡で開催される世界選手権が待ち遠しい。

 どん底からもう一度、瀬戸ははい上がってきた。

 16年リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得したのは、22歳のとき。19年には世界選手権で優勝を飾り、早々と東京五輪への切符をつかんだ。

 向かうところ敵なし。ところが、競泳人生は突然暗転する。

 東京五輪の1年延期でモチベーションが低下し、不倫問題を起こした。公私ともに乱れた中で始まった東京五輪は、まさかの準決勝敗退に終わった。

 迷走は続く。

 その後の練習も集中力を欠き、タイムが伸びない。世間からのバッシングにストレスを募らせ、遊び歩いて大量の酒で発散する日々を重ねた。

 自暴自棄になりかけた時、真っ向から叱ってくれた人がいた。東海大の加藤健志コーチだ。

 瀬戸は言う。

 「水泳のことだけじゃなく、人間性や人生のところまで言ってくれた人は他にいなかった」

 指導力の高さだけでなく、練習の過酷さでも知られる。22年3月、瀬戸は加藤コーチの下で生まれ変わる覚悟を決める。

 神奈川県平塚市のキャンパスの近くに部屋を借り、下宿生活を始めた。2部制の練習は早朝6時に始まり、終わるのは夜10時という。

 学生に交じっての、再起をかけたハードな毎日。「もう一度、応援される選手になろう」「今度こそ、本気で世界一をめざそう」。コーチのそんな励ましに背中を押され、「ヘロヘロになりながら、純粋に世界一だけをまた考えられるようになった」と瀬戸。競技に正面から向き合うのは、久しぶりだった。

 加えて、こう言われ続けているという。

 「大也は、ブルジュ・ハリフ…

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この記事を書いた人
藤木健
スポーツ部|サッカー担当キャップ
専門・関心分野
サッカー、国際関係