元競泳選手で金メダリストの萩野公介さん(28)は、メンタルヘルスの不調で現役時代に休養しました。しんどくなった時、「最強のメンタル」を目指すのではなく、「自分自身でいること」を選んだといいます。どういうことなのか。話を聞きました。
――アスリートは心身ともに強靱(きょうじん)というイメージを持たれがちです。
確かに、健康・健全というイメージがありますね。
僕は、自分自身の人生しか語れないし、自分が経験してきた内容しか話すことができません。
ただ、もしも僕の経験を通して、誰かが自分という存在を新しく考えるきっかけにしてくれれば、僕自身もすごく幸せだと思います。
――2016年のリオ五輪で金メダルを取った後、19年に数カ月間、休養しましたね。
ご飯が食べられないとか、眠れないとか。すごく不安な感情が押し寄せてくるような状況でした。
10月10日は、心の不調への理解を願う「世界メンタルヘルスデー」です。現役時代に休養を経験した萩野公介さんに、当時の心境や、休養後に東京五輪を目指す中で心の支えになったこと、勝ち続けるというアスリートに求められる価値観についての考えを伺いました。
――周囲に伝えることに難しさはありましたか?
誰が見たって「あなたメンタル不調でしょ」というくらい身体症状が出ていたんです。
圧倒的にうちひしがれていて、言わざるを得ない状態でした。
逆に、そこまで行かないと、「しんどいです」と人に言うのは難しかったですね。
――風邪などの身体の病気に比べ、メンタル不調はまだ言いにくい社会だと感じます。
「インフルエンザで練習を休みます」は軽く言えるけど、「心がきついんで、休みます」というのはなかなか言えないじゃないですか。
それに、僕の場合はがんばりたいっていう気持ちが存在しなかったわけじゃない。
がんばりたいっていう気持ちも存在するんだけれど、がんばれない。がんばることが出来ないという感じですね。
――どなたに話をされたんでしょうか。
コーチに「気持ちがしんどいんで休みます」みたいな感じで言いました。
「お前はようやく、初めて本音を言った」って言われました。
僕はずっと、求められる自分を常に演じて、生きてきていたので。
――「世間から期待される自分」と「本来の自分」に乖離(かいり)があったそうですね。
生まれ持った性格が、スポーツ…