「野球だけじゃないおじさん」 博士号も農業も 工藤公康の学び直し
プロ野球ソフトバンク前監督の工藤公康さん(59)は、大学院に提出するためのTOEIC(英語能力テスト)を受けたことがある。
妻・雅子さんは、その姿勢に「点数は低かったんですよ。でも、すごいなと感心しました」。
4択問題なのに、工藤さんは「わからないところは空白で出した」という。1点でも高い点を取るために、選択すればいいのにと雅子さんが言うと、こう答えた。
「それだと、今後勉強してどれだけ上がったかわからなくなる。今の実力が知りたいんだから」
今できていないことは何か。足りないものは何か。点数を稼ぐよりも、それを知ることのほうが大切だという意識が強くある。
現役を引退した後、2014年にトレーニングなどの指導を受けていた筑波大学大学院に進学した。野球選手の「故障予防」を研究テーマとした。
「子供たちの肩・ひじ検診に携わり全国を巡った。すると、肩やひじを痛めて悩んだり、手術したりする子供たちの多さに驚きました。肩・ひじ検診の必要性を全国に広め、できれば検診で故障が見つかる前の予防もできないか、を研究していきたいと考えました」
プロ野球選手、監督時代の実績は申し分ない。
通算224勝で名球会に入り、監督では5度の日本一。球界に最も貢献した関係者へ贈られる「正力賞」に選手・監督の両方で5回も選ばれた。名実ともに球界の優勝請負人だった。
でも、今は違う。ユニホームを脱いだ自らを「ただのおじさん」と呼ぶ。
「世間からは『あ、野球できるんですよね』程度の見られ方だと思う。それが引っかかった。野球選手は野球しかできないというイメージを覆したかった。スポーツからは離れないが、学び直すことで自身を変えられないかとも思い、選択肢の中に大学院があった」
プロ野球の監督在任中に大学院の修士号を取得した工藤公康さんは、「出会いに救われた」と少年時代を振り返ります。実母の顔を55歳のときに初めて見たそうです。輝かしい球界の実績からは想像もつかない生い立ちにも迫りました。
飽くなきまでの学びへの欲求はどこからくるのか。
「考えたり、工夫したりする…