第5回発電所は我が家の庭に エネルギー自給の家、実現するも模索は続く

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斎藤健一郎
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 庭のソーラーパネルと、バッテリーを結ぶケーブルを電気担当の中津川豊樹さん(51)が接続すると、発電状況を示す液晶モニターが勢いよく点滅し始めた。「もう充電しはじめましたよ。バッテリーの状態もよさそうだね」と中津川さんが笑う。生活に必要な電気をすべて太陽光でまかなうという長年の夢が、いま実現したのだ。これで冷蔵庫はもちろん、洗濯機も、東京の家ではご法度のドライヤー「強風」も使える。

 「やったー、うれしいな」と喜びを口にしてはみるものの、あまりにもあっけない。自分でしたことと言えば電力自給の夢を抱いたことと、パネルを載せる架台の塗装をしたこと、一個24キロの重さの鉛バッテリーをいくつか、腰を痛めないように注意して家裏のバッテリー小屋に運び入れたことくらいである。でも確かに、再生可能エネルギー100%、家で使う分のすべて自前で発電する「ほくほく電力」が稼働したのである。

 八ケ岳のふもと、標高600メートルで手に入れた築40年の家を僕は「ほくほく」と名付けた。山梨県北杜(ほくと)市にあることと、心も体もほくほくとあたたまる建物にしたいという思いから。というとそれなりに聞こえるけれど、実際は東京で見かけた焼きいも売りの軽トラックがネーミングのきっかけだ。

SDGsもカーボンニュートラルもじぶんごと。誰もが当たり前に使っている電力会社の電気やガス、灯油といったライフラインを自ら断って、太陽光、太陽熱、薪の再生可能エネルギーで暮らしを成り立たせたい。節電道に踏み入ってもうすぐ10年の記者が八ケ岳南麓で真剣に、楽しく、時にちょっと苦しみながら挑戦するエコハウス「ほくほく」プロジェクトの話です。

 床面積約20坪の小さな家に抱いた夢は大きい。温暖化、環境危機といった地球規模の問題に対して、自分が考えうる限りの手を打ち、暮らしに必要なエネルギーを100%自給できる家をつくる。プロジェクトで最も大きな、天王山とも言える挑戦と考えていたのが電気の完全自給だった。

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この記事を書いた人
斎藤健一郎
文化部|be編集部
専門・関心分野
省エネ、環境、エネルギー、旅