二度改姓で陥った「名義変更地獄」旧姓の通称使用拡大が生む混乱とは

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聞き手・柏木友紀
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 今国会での審議入りが注目される「選択的夫婦別姓」。経団連が導入を求めるなど機運が高まる一方で、保守系議員を中心に「旧姓の通称使用の拡大で対応すべきだ」との巻き返しも起きています。選択的夫婦別姓の実現に向けて活動してきた一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂さんは、通称使用の拡大では「目も当てられない一層の混乱を生む」と反対します。改姓をめぐって、さまざまな困難に直面してきたからこその訴えとは――。

一般社団法人「あすには」井田奈穂さんインタビュー

 ――「井田」は、元々の名字ではないそうですね。

 19歳で学生結婚をした際、両方の親から姓は当然女性側が変えるもので「いわんや本家の長男の嫁になるのだから」という圧力を受けました。夫になる人からも「男の自分が変えるのは恥ずかしい」と言われ、やむなく改姓しました。元の名字が気に入っていたし、あだ名も名字由来だったのに。出産で長期入院した際に、自分ではない名字で呼ばれ続けるのが苦痛でした。

 就職活動の時期は氷河期。既婚で子どもがいるだけでもネガティブポイントなのに、旧姓の通称使用を求めるなど、とても言い出せませんでした。業界紙で記者の仕事を戸籍名の「井田」姓で始めました。そこから20年ほどこの名前で仕事をし、その後に離婚した後もこの井田を名乗っています。

 ――「婚氏続称」(離婚後も、元結婚相手の名字を名乗り続けること)なのですね。

 離婚したのは30代後半、キャリアを積んだ後に名前を変えるのは大変です。

 母子3人で新しく戸籍を作る場合、現在の同氏同籍の原則では、私が旧姓の名字に戻ると、今度は子どもたちに改姓を強いることになります。子どもたちは母親の離婚や再婚には賛成ですが、改姓は望んでいませんでした。私が改姓して苦痛だったのに、その思いを子どもたちにさせたくないと思いました。

 その後再婚することになりましたが、私が改姓を嫌だと言うと、相手が改姓することになります。それでは、元夫の名字を今の夫に付けることになってしまう。さすがにそれは酷なので婚姻届は出せませんでした。

 ところが、夫が腫瘍(しゅよう)の摘出手術を受けることになり、病院側からは事実婚だからと医療行為の同意書への署名を断られ、「本当のご家族を呼んできてください」と言われました。彼の母は夫をなくしたばかりで、息子の病気を伝えるのは忍びなくて黙っていたのに、その日に突然連絡をしてすぐ来て欲しいと。それ以降も、義母が同席していないと私は病状説明も聞けない状況でした。やむなく婚姻届を出して、私がもう一度改姓しました。

戸籍謄本4種類を提出

 ――この時点で、戸籍上は「井田さん」ではなくなったと。

 はい、40代の子連れ再婚では、ありとあらゆる場で大量の名義変更の地獄が待っていました。

 マイナンバーカードに旧姓併…

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この記事を書いた人
柏木友紀
デジタル企画報道部次長
専門・関心分野
ジェンダー、格差問題、教育、メディア、文化
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    上西充子
    (法政大学教授)
    2025年4月12日12時51分 投稿
    【視点】

     旧姓の通称使用の拡大では問題は解消しないことがよくわかる記事です。井田さんがご自身の事情を語ってくださっているからこそ、現在の同姓の強制がいかに問題であるかがよくわかるのですが、同時に、当事者がこのようにプライベートな事情を語らないとわか

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    上西充子
    (法政大学教授)
    2025年4月12日13時16分 投稿
    【視点】

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