300人以上の選手が命落とした 伝えるため現役続ける金メダリスト

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聞き手=藤田絢子 編集委員・稲垣康介
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 ウクライナレスリング選手、ジャン・ベレニュクは、2021年夏の東京五輪のウクライナ勢で唯一、金メダルの栄冠を手にした。当時30歳。「有終の美を飾り、引退」という自ら描いたシナリオは、半年後のロシアによるウクライナへの侵攻によって変わった。33歳のこの夏、パリ五輪の舞台に立つ。彼はなぜ、マットに戻ってきたのか。

 ――ウクライナでは普段、どんな生活ですか。

 「私は首都のキーウで暮らしている。スーパーマーケットには肉も野菜もふつうにある。当初、キーウから避難した人たちも戻ってきている。1年前の冬に比べると、停電も大きく減った。ただ、毎日ではないが、空爆はある。ロシアはたいてい、深夜から明け方にミサイル攻撃を仕掛けてくる。午前4時ごろとか。ウクライナには優れた防空システムがあるので、1発のミサイルだけなら撃ち込まれても迎撃できる。ただ、大量のミサイルが一度に飛んでくると防ぎきれない。そうしたときはアパートを出て、シェルターに逃げるしかない。防空システムに撃ち落とされたミサイルの一部が家に落ちてくることもある。とても危険なんだ。私たちはこの現実の中で生きている」

 ――侵攻開始から2年が経ちました。

 「ヨーロッパやウクライナを支援してくれている他の国で500万を超す人が避難生活を送っている。ウクライナ人の誰もが親や子どもを失ったり、友を亡くしたりしている」

 ――国内の多くのスポーツ施設が破壊されたのですか。

 「私が知る限り、200以上…

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この記事を書いた人
稲垣康介
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