息子の30年、聞きたかった コロナに消えたある母の夢

有料記事

有近隆史
[PR]

 「お袋、一緒に住もう」。一人息子にそう提案されて、引っ越しの準備を進めていた女性。しかし、その直前、息子は亡くなってしまいます。それでも女性は、息子と探した新居に移り住みました。

突然の申し出

 横浜市内の駅近くにある15階建てのマンション。3LDKで、広さは60平方メートル超。巴(ともえ)美紀子さん(71)は昨年5月、長年住んでいた広島から移り住んだ。

巴さんは今年2月、朝日新聞生活面の「ひととき」に手書きの投稿を寄せ、3月2日に「息子が買った新居」というタイトルで掲載されました。記事の最後に再掲しています。

 「お袋、一緒に住もう」。都内で一人暮らしをしていた息子の明日香さん(当時48)から、そう提案されたのは、前年の2019年秋のこと。高校入学以来、離ればなれに生活していた明日香さんが、生まれ故郷の横浜で一緒に暮らそうという。突然の申し出に驚いたが、いずれは若い頃に住んだ土地に戻りたいと思っていた。

 テレビ番組などを制作する会社で働き、多忙な明日香さんに代わり、新居探しはほとんど美紀子さんが担った。仕事に行きやすいように駅から近い場所。ベランダからは富士山、そして夜にはライトアップされた横浜ベイブリッジが見える。理想的な物件が見つかり、即決した。2人で購入費を出し合い、昨年5月には新生活をスタートさせる段取りだった。

無断欠勤、そして救急隊からの電話

 しかし、昨年4月、明日香さんが勤務する会社の上司から美紀子さんに連絡があった。「無断欠勤しているんですけど、心当たりはないですか」。息子の性格上、勝手に休むことはあり得ない。会社の人も同じ思いで、明日香さんが住んでいた家を訪ねた。しんどそうだったが、二言三言やりとりができたという。

 翌日、電話をかけてきたのは…

この記事は有料記事です。残り1830文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トク】締め切り迫る!記事が読み放題!スタンダードコース2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
有近隆史
くらし報道部次長
専門・関心分野
社会保障、住まい、平和