第4回「面白い、と『犬笛』に加担」 向けられる矛先、中傷なお止まらず

有料記事

[PR]

 4月15日、東京都内で「みんなでつくる党」(旧NHK党)が記者会見を開いた。60代のボランティアスタッフの男性が自殺したことを受けたものだった。

 党側は、かつて党首だったが袂(たもと)を分かった立花孝志氏に自宅の住所をネットで無断公開されたことや、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷が原因だと主張した。本人が死の直前にSNSで公表した遺書には、住所をX(旧ツイッター)で公開され、立花氏が「いわゆる犬笛を吹いたこと」が死を選ぶ理由の一つだと記されていた。

 会見の最後、1人の男性が手を挙げた。「フリーでやっております」と言うと涙を流し、しばらく言葉が続かなかった。終了後に記者が声をかけると、「自分も『犬笛』に加担した側だったんです」と語った。

写真・図版

 テレビ番組の制作会社などを経て、ユーチューブ配信者として活動していた2019年、立花氏が机をたたいて怒っている様子を動画で見て「おもしろい」と思い、スマホを手に追いかけ始めた。立花氏が誰かとトラブルを起こす様子は「再生回数が伸びる。ハッキリ言って、おいしい」。

 立花氏が住所を無断公開することは以前もあったが、支持者らが押しかけるとまでは思わなかった、という。再生回数40万回、月収数十万円に達し、高揚感を得ていたことを今は「犬笛に加担した」と感じるという。

【連載】ある1滴が 「みる・きく・はなす」はいま

 社会にぽつりと落ちた誰かの「一滴」の言動は、どんな感情や体験から発せられ、どこに向かうのだろう。1987年5月3日の朝日新聞阪神支局襲撃事件を機に始めた連載の第50部。「一滴」の後先を見つめることが、「言論の自由」を守るヒントになるという思いで紡いでいきたい。

 「犬笛」という言葉は最近…

この記事は有料記事です。残り3102文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    江川紹子
    (ジャーナリスト・神奈川大学特任教授)
    2025年4月30日16時3分 投稿
    【視点】

     立花孝志氏と一部支持者との関係や行動パターンは、極めてカルト性を帯びている。しかもSNS上では、立花氏が「尊師」などと呼ばれていたりする。N国党の取材を続けている選挙ウォッチャーちだい氏によれば、立花氏自身がそう名乗っていたこともある、という。  「尊師」は、オウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫教祖への尊称として用いられている言葉としてあまりに有名だ。立花氏が「尊師」であれば、熱烈な支持者らは「信者」の位置づけだろう。  カルト性の高い集団では、教祖などリーダーの言うことを、信者らフォロワーは絶対視し、その意図をくみ取って行動する。その際、目的のためには手段を選ばない傾向があり、世の中のルールや習慣、常識などは軽視されがち。その極端な例が、「尊師の意思」を何より優先して、法を犯し他者の命や人権をないがしろにしたオウムである。  フォロワーがリーダーの「意思」をくみ取って、それを実現することに意義や喜び、達成感、高揚感を覚えるような関係において、「犬笛」は効果を発揮する。たとえ明文での指示はなくても、フォロワーはリーダーの「意思」を読み取り、行動する。それがもし意図から外れていれば叱責されるだろうが、そうでなければ正しい読み取りだったと学習し、それが行動パターンとして定着するだろう。こうして「犬笛」の語法ができていく。  このようなやり方なら、批判されたり取り締まりの動きがあっても、個々のフォロワーがそれぞれの判断で勝手にやったことにして、リーダーは「そんなことになるとは思っていなかった」としらばくれることも可能だ。  カルト性の高い集団によって敵視された人が、こうしたやり方で攻撃され、SNS上での虚偽情報や誹謗中傷ばかりか、リアルな生活においても、様々な困難に陥り、精神的にも追い込まれているのが、今起きている問題だ。その結果、亡くなったと見られる人は、今回の男性が初めてではない。  反社会的で命や人権を損なう行為を繰り返す集団については、メディアがきちんと報じて社会問題とし、違法行為があれば司直が適切に対処しなければならない。その点、朝日新聞が今回、「犬笛」問題を正面から取り上げたことは、評価したい。  相手の反応が過激で面倒だからと忌避したり、あるいは「信教の自由」や「言論の自由」「政治活動の自由」への侵害だとの批判を恐れたりして、放置したらどうなるか。それこそが、地下鉄サリン事件までオウム真理教にブレーキをかけられなかった、この社会が学んだ教訓だろう。他メディアも続いてほしいし、被害の訴えがあるケースについては迅速な捜査を望みたい。

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年4月30日18時39分 投稿
    【提案】

    深刻な問題ですね。様々なケースで、脅迫や威圧で、実質的に言論弾圧や表現規制になっており、「表現の自由」が侵害しているように見えるケースもあります。判例によれば、権力に拠る事前検閲ではないので「検閲」に該当しないのでしょうが、実質的に表現の自由が奪われている状態が生じていることは確かであり、治安の悪い国でジャーナリストや野党の候補者が口を封じられるのと似たような効果が生じてしまっているように感じます。健全な民主主義のためには、法的にコントロールしていく必要があるでしょう。 法律の運用を変えることで解決できる部分もあるのではないでしょうか。ネットへの書き込みであっても、人を死に追いやる暴力として機能する。精神疾患に陥らせたのでしたら、それは傷害に近い行為ですよね。ネットを介しており、匿名化され、分散しているから実感がなく、処罰ができないというだけで、実質的には殺人を分担しているようなものなわけですから、その加害に対して刑や罰を与えるうまい方法を技術的・法的に作り上げていくことが必要なのかもしれません。

    …続きを読む