第1回サイゴン陥落の日、私は官邸に突入した 元戦車兵が刻む分断の記憶

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ホーチミン=大部俊哉 取材協力=ライ・タイン・ビン
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 1975年4月30日、午前10時40分。

 サイゴン――。南ベトナムの首都。その大統領官邸の正門が目前に迫った。

 北ベトナム軍の戦車「390号」の乗員4人を静寂が包む。

 25歳の操縦手、グエン・バン・タップ氏は沈黙を破った。「どうしたらいいですか?」

 門の向こうには、南ベトナム軍の装甲車が数台止まっているのが見える。

 「まっすぐ突っ込め」。指揮官の一言は、勝利への号令にも、死への号砲にも聞こえた。

 タップ氏がアクセルを踏み込むと、鉄のきしむ音がして、門が砕けた。

 敵側の兵士たちが車両を捨てて逃げていく。

 ほどなくして屋上に、北側の勝利を示す旗が翻った。

 この日、10年以上続いたベトナム戦争が終わりを告げた。

 あれから半世紀が過ぎた。

エコーズ・オブ・サイゴン ベトナム戦争終結50年

南北統一を果たし、かつて敵だった米国と手を取り合ったベトナム。しかし、分断の傷痕は今も消えていません。「戦後」の行方を、現場から見つめます。

 75歳となったタップ氏は、「統一会堂」と名を変えた旧官邸の前に立ち、回想する。

 「最後の朝も、多くの仲間が…

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この記事を書いた人
大部俊哉
マニラ支局長|東南アジア・太平洋担当
専門・関心分野
安全保障、国際政治、貧困問題

連載エコーズ・オブ・サイゴン ベトナム戦争終結50年(全5回)

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