第1回21万円で売られた女性 世界中を狙った詐欺に「理想的」な隠れみの

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タイ北西部メソト=笠原真
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 「映画の撮影」との誘い文句は、恐怖への入り口だった――。

 1月上旬、中国の若手俳優が、タイとミャンマーの国境地帯で突然消息を絶った。数日後に救出され「とても怖かった」と話した男性は、頭を丸刈りにされていた。

 仕事に応じたはずが、男性はミャンマー側で犯罪組織に売り渡されていた。数千人もしくは数万人以上が同様の被害に遭っているとされる。

 現地で何が起きているのか。

【連載】カジノフロンティア 岐路に立つ東南アジア

人、カネ、そして犯罪までも。カジノは様々なものを引きつけます。それを手に入れた先に待ち受けるのは、経済的な繁栄か、それとも混沌(カオス)か。岐路に立つ東南アジアの実情を、各国の現場から報告します。

 昨年5月、記者はタイ北西部メソトにいた。国境の川の対岸を望むと、虹色のネオンがギラギラと夜空を照らしている。川の向こうは、シュエコッコと呼ばれるミャンマー東部の街だ。望遠レンズをのぞくと、建物群に「亜太国際大酒店」などの漢字が見えた。

 俳優の男性は「撮影」のためタイに入国後、不法に国境を越えてこの街に連行されたと伝えられる。人身売買の末、労働を強いられる事案がここで横行しているという。

 「死を覚悟」する経験をしたというタイ人女性(26)に話を聞くことができた。

 SNSで流れてきた短い動画が女性の目にとまった。札束を振りかざしてブランド品を見せつける、「カジノ経営者の妻」を名乗る若い女が、月給4万バーツ(約19万円)で働き手を募っていた。コロナ禍で職を失っていた女性は誘いに乗った。2021年2月のことだ。

 メソトへ来るようSNSで指示された。関係者らの手引きでミャンマーへ不法に入り、シュエコッコにたどり着いた。

 街にはカジノやカラオケ、ホテル、百貨店のような商業施設もあった。だが女性が任されたのは「コールセンター」の仕事だった。

 「職場」は5階建てビルの一…

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この記事を書いた人
笠原真
ヤンゴン支局長兼アジア総局
専門・関心分野
紛争、難民、格差
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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2025年1月29日14時0分 投稿
    【視点】

    この件、ネットを触媒とした巨大な詐欺暴力システムの怖さも印象的だが、拉致監禁された人々の本国にて、その検出やチェック、事実把握がまったく追い付いていないらしい点がまた怖い。だからこそ犯罪者側に「有利」な状況といえてしまうのだ。本当に怖い。

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    インベカヲリ★
    (写真家・ノンフィクションライター)
    2025年1月31日0時40分 投稿
    【視点】

    日本人を連れてこようとしているということにゾッとする。「多くが高額な報酬をうたうSNSなどの求人募集にだまされ」とあるが、被害に遭った中国人俳優のように、「映画の撮影」でまさか犯罪組織に売り渡されるとは思わないだろう。外国まで行って働こうと

    …続きを読む
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