第6回「ダメ」強調、脅しの薬物教育 差別・偏見なくすには…研究室の挑戦

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川野由起
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 「ダメ。ゼッタイ。」「覚醒剤やめますか? それとも人間やめますか?」。学校の薬物乱用防止教育でよく使われるキャッチコピーが、薬物の危険性を過度に強調し、当事者への偏見や差別を助長する恐れがあるとして、こうした教育を見直そうという動きがある。

 摂南大学薬学部(大阪府枚方市)の高田雅弘教授の研究室は、当事者団体と連携しながら差別や偏見を生み出さないための教材づくりなどに取り組むほか、若年層で広がる市販薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)の研究も進めている。

くるしい日々を生きながら オーバードーズ(連載はこちらから)

若者による市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)が増えています。背景には、親からの虐待、学校や職場になじめないといった「生きづらさ」があります。苦しいけれど生きていきたい。そんな若者たちの声を聞きました。

 研究室はもともと、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者の地域の介護施設での受け入れを進める活動をしてきた。介護で感染するリスクはほぼないにもかかわらず、患者への誤解や偏見があったからだ。医師や薬剤師と連携し、学生とともに介護職員に正しい知識を伝えたり、学生が中学校を訪れて生徒と対話しながら学ぶ「ピア教育」をしたりしてきた。

 こうした活動のなかで出会ったのが、薬物依存症当事者の回復施設「木津川ダルク」のメンバーだ。別のダルクでは施設をつくろうとすると地域で反対運動が起きたことがあると聞き、薬物依存症当事者への「スティグマ(負の烙印(らくいん))」が、HIV陽性者と共通すると考えた。

 薬物依存症は「孤独の病」とも呼ばれ、何かしらの生きづらさを緩和しようと薬物に頼る人が少なくない。また、一度依存症になっても薬をやめ、回復することができる。

 一方で、「ダメ。ゼッタイ。」に代表される国内の薬物乱用防止教育は「脅し教育になっている」と高田教授は指摘する。

 「薬物の危険性について伝えるのは大事だが、『ダメ。ゼッタイ。』だけで終わらせてはいけない。生きづらさを抱え薬物に頼る人たちが差別され、孤立してしまう」と話す。

「孤独の病」、つながりのなかで回復できる

 2023年度には学生やダル…

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この記事を書いた人
川野由起
くらし科学医療部
専門・関心分野
こどもの虐待、社会的養育、アディクション
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    永田豊隆
    (朝日新聞記者=貧困、依存症、社会保障)
    2024年12月18日14時1分 投稿
    【視点】

    「ダメ。ゼッタイ。」という標語に象徴される現在の薬物教育は、薬物依存症当事者への偏見を広げる恐れがあるとして支援者の間に根強い批判があります。社会に広がる偏見は、苦しんでいる当事者が適切な支援につながるうえで大きな壁になるからです。 現在の

    …続きを読む