永瀬拓矢王座、僕が掲げる旗は銅色 「少数派の子どもたちのために」
永瀬拓矢という棋士について考える時、つい思い出してしまうのは3年前に彼が語った言葉のことだ。
2019年6月、直前に初タイトルの叡王を獲得したことを祝福するイベントの終わりに、永瀬は参加者の子供から「将棋に必要なのは本当に才能ではなく努力なんですか」と質問された。
広く知られている語録は本当なのかと。これから人生を歩んでいく小さな子の切なる思いが伝わる問いだった。
名人を頂点とする順位戦。棋士たちはどんな思いを胸に戦っているのでしょうか。彼らの純粋な情熱を、純真な人情をインタビューで伝えます。棋士の数だけ物語はある――。
永瀬は笑顔を浮かべた後、真顔になって少年に語りかけた。
「自分は子供の頃、何をやってもうまくいかない子供でした。でも将棋と出会えた。出会えて頑張ることができた。才能はないとすぐに分かりましたけど、努力することはできたんです。大切なのは好きなことを見つけて、努力を続けることだと思っています」
そして続けた。
「自分は自分の棋士人生を通して、才能よりも努力の方が大切なんだということを証明したい。何かを頑張ろうとしている子供たちに伝えたいんです。才能は腐ってしまうけど、積み重ねる努力は違う。才能のある人の多い将棋界で、才能のない自分がどれだけやれるか。まだ何も証明していないので、これから証明したいと思っています」
あれから3年。王座3連覇、タイトル獲得通算4期、順位戦でA級昇級と「証明」への階段を着実に上がっている29歳の永瀬に聞いた。あの時の言葉を覚えているか、と。
「できない子は頑張っていないからできないんじゃなくて、できないからできないんです」。金と銀の動きを理解するのに人より時間がかかったという永瀬王座が語る努力とはーー。
「自分は考え方が年単位くら…