タオルミーナでカンノーロを 上品なクリームとザクザクの生地

イタリアはなんといっても愛の国! 一皿の料理にかける愛も情熱も並々ならないものです。食べてみると、美味しさの奥深くにどこか知らない隠し味がある。イタリアで暮らす俳優・渡辺早織さんがそんなイタリアの愛に溢れた料理と、とっておきの味の秘密にせまるイタリア料理紀行です。
グラニータの爽やかな冷たさ
「せっかくシチリアにいるのだからシチリア式の朝食を食べなくちゃ」
バールに入って私はグラニータとブリオッシュを注文した。

グラニータとはシチリア発祥の氷菓で、フルーツやシロップ、コーヒーなどを凍らせて砕いたものだ。
なめらかな口当たりにシャキっと目が覚める爽やかな冷たさが、やさしく、でも確実に眠い目を開かせる。
こんな方法で朝を起こしてもらえるなんてと感動している私の横で、そんなことはおかまいなしと言わんばかりに、いつものペースでカプチーノを注文している夫がいる。
旅も折り返し。
私たちはシチリア東海岸の街タオルミーナにいる。
世界中から人が押し寄せる一大観光地タオルミーナ。きゅっとシチリアらしさが詰め込まれたこぢんまりとした旧市街はなんともかわいらしく、ここも、あそこも、とついつい色々なお店に立ち寄ってしまう。

「僕はここに来たかったんだ」
一通りの散歩を終えて向かったのはタオルミーナ古代劇場だ。
そのはじまりは紀元前3世紀。岩場をくり抜いて造られたというすり鉢型の劇場。
なんて大きいんだろう、と興奮しながら観客席へと向かったらその最上階から広がる景色に私は言葉を失った。

下から見上げた時には遺跡のスケールの大きさに圧倒されていたのに、上から見下ろした時には、そのスケールを優に超えた大迫力のパノラマが待っていたのだ。
遺跡の先には、タオルミーナの街全体と、海岸線が美しく続き、さらにその奥にはエトナ山と壮大な山々がそびえている。
それらが一度に視界に飛び込んできて、力強くぎゅっと心を握りしめる。
唯一無二の眺望とそこに流れる空気が、なかなかここから私たちを立ち去らせてくれない。
この場所を一度目にしたらどうして忘れることができるだろうか。
クリームは食べる直前に詰める
すっかり圧倒されたらしっかりお腹が減ったので、実はさっきの街歩きの時に気になっていたジェラテリアに入った。
ここで食べたかったのは、ジェラートではなくシチリアの名物カンノーロだ。
日本でも広く知られているカンノーロ、筒状の生地にリコッタなどのクリームを詰めるシチリアの伝統菓子である。
やはり本場で食べなくてはとこの機会をずっと待っていたのだ。
ショーケースの中にはまだクリームが詰められていない筒だけが重なっていて、注文するとその場でクリームをいれてくれる。

そのおかげで生地はザクっと大きな音を立てて口の中でパラパラと砕けた。
中のクリームはその生地とは反対に、歯が拍子抜けするほど軽く、踊るように口いっぱいに広がった。
上品で飽きのこないクリームとザクザクの生地の組み合わせは、大人と子供の両面をもっているような無邪気な無敵さを感じるような味だった。
今まで食べたカンノーロとこんなにも違うものかと驚いている私の顔を見た夫は、
「本物のカンノーロはシチリアでしか食べられないんだ」
とすっかり満足気で、さらにこう付け加えた。
「クリームを食べる直前に詰めるのが、おいしいカンノーロの秘密だよ」
なんだか一本取られたような気持ちになったけど、私もこれには大いに納得だ。
心弾むカンノーロの食感を最後まで楽しく味わった。
次はこの旅、最後の街へ。
タオルミーナの旅の動画はこちら
載せきれないタオルミーナの写真はフォトギャラリーで(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)

ご主人も楽しそう。素敵な旅行ですね
本当に美味しいですよね。
懐かしく思い出しています、あの味を!