建設費高騰の影響で迷走を続け、事実上の白紙となった東京都中野区の中野サンプラザ跡地の再開発。中野区は、野村不動産を代表とする施行予定者グループが変更案として示した「ツインタワー案」に関する協議を中止し、基本協定を解除する方針を示している。建設費の抑制や施工性の向上を狙ったツインタワー案を区が拒んだ理由は大きく3つある。
中野サンプラザの再開発では、建設費の高騰を背景に事業費の膨張が課題になっていた。区が2021年5月に施行予定者と基本協定書を締結した当初の事業費は1810億円ほど。ところが24年1月には約2639億円となり、同年9月には設計・施工を担う清水建設の見積もりでさらに900億円分の上昇が判明。3500億円を超える規模に膨れ上がった。
施行予定者は事業計画の採算性を見直すため、各用途の床面積を変更する案を示した。オフィスを全体の4割から2割に減らし、住宅を4割から6割に増やした。さらに、建設費の削減と施工性の向上を図るため、当初計画していた高層棟を1棟から2棟にした上で、高さを抑えるツインタワー案を示した経緯がある。
区が協議中止の理由としたのは次の3点。(1)事業成立の見通しが明らかでない(2)変更案は公募時の提案に対して公平性、中立性に課題がある(3)区民が利用する施設の魅力が十分に踏襲されていない――だ。酒井直人区長は25年3月27日の定例会見で、「中野区の顔となる特別な場所で進める提案として十分ではなかった」などとコメントした。
区の説明によると、事業収入と支出額には900億円超の乖離(かいり)があった。施行予定者はツインタワーの配棟計画や建物構造の合理化で工事費を削減しつつ、住宅面積の増加や住宅単価の見直しなどで保留床処分金を増やして事業収支を改善する案を示したという。一方で、計画を具体化する過程で事業収支は変動する可能性があるため、現時点で事業の成立を担保できないことも報告していた。
区はツインタワー案への変更による具体的な工事費削減額や構造に関する技術的な検討の内容について、事業者のノウハウだとして明らかにしていない。ただし、区まちづくり推進部中野駅周辺まちづくり課の小幡一隆課長(当時)は、「900億円を削減できる案ではなかった」と話す。
区が協議中止の理由に挙げた残り2点の詳細については、以下の通りだ。