三重県の27歳女性県議が急な生理で困ったとして市役所のトイレに「生理用品を置いてほしい」と交流サイト(SNS)で訴えた。共感が広がる一方、誹謗(ひぼう)中傷のメールも相次ぎ、殺害予告にまで発展した。卑劣な攻撃の背景には、ミソジニーや生理に無理解な風潮がある、と識者は指摘する。女性が直面する生理の困難の本質とは。(中根政人、太田理英子)
◆問題提起の投稿に「殺害予告」まで
きっかけは、3月25日にX(旧ツイッター)に投稿された書き込みだった。
「今日いきなり生理になって困った。津市役所のトイレにはナプキンは残念ながら配置されてなかった。トイレットペーパーみたいに、生理用ナプキンをどこでも置いてほしい」
投稿したのは三重県議の吉田紋華(あやか)さん(27)=共産。「私自身が本当に大変だったので、問題提起したい」と思ってのことだったが、28日以降、県議会事務局に「馬鹿(ばか)に税金が1円でも使われる前に殺してしまえば解決する」などと、吉田さんの殺害を予告するメールが8000件以上も届く事態に。吉田さんの個人アドレスにも「馬鹿女」「キモすぎる」などと、誹謗中傷のメールが2000件以上も寄せられ、「現在も件数が増えている」状況という。
◆「常備しとけ」「女子のたしなみ」
「こんなことをされなければならないほどのことを、私は言ったのか」。吉田さんは「こちら特報部」の取材に、心境を率直にこう語る。支援者らにまでメールを送る執拗(しつよう)なまでの「攻撃」に恐怖も感じている。
Xでは、「生理用ナプキン(の話題)で殺害予告は異常」「意見は真っ当」と共感が寄せられる一方、「自分で常備しておけよ」「コンビニで売ってなかったのか」と冷淡な反応も。
自民党が夏の参院選比例代表の公認候補として擁立を決めた杉田水脈元衆院議員は3月27日、Xに「そういう時の為に、常時ポーチの中にナプキンを一つ入れておきなさいってお母さんから教えてもらいませんでしたか? 女子の嗜(たしな)みですよ〜」などと、吉田さんを揶揄(やゆ)する書き込みをした。
◆無理解にとどまらない「女性嫌悪」
「自己責任」が当たり前であるかのような杉田氏の書き込みについて、吉田さんは「こういう価値観を持った人が、生理のことをオープンに話すことを妨げている」と憤る。「社会にはいろいろな人がいて、さまざまな大変さを持っていることを互いに理解できるようにするための発信が必要だ。もっと思いやりのある社会になってほしい」
ジェンダーの問題などを扱う作家のアルテイシアさん(49)=神戸市=は、吉田さんへの殺害予告などの背景に、女性の生理を巡る問題への無理解にとどまらず、女性を嫌悪・蔑視する「ミソジニー」があると指摘。「『格差』と『競争』の社会の中、ヘイトの矛先が女性に向かっている。女性だからたたかれるというのはすごくある」と述べ、当事者が問題を可視化する取り組みを毅然(きぜん)として続けるべきだと訴える。
8日の衆院総務委員会でも、この件が取り上げられた。辻清人内閣府副大臣は「ミソジニーの背景には、長年にわたり人々の間に抱かれている固定的な性別役割分担意識や、無意識の思い込みなどがあると想定される」とした。今後については「効果的な調査や分析、対策のあり方について、不断の検討を重ねていきたい」と述べるにとどめた。
◆「買えなかった」「ためらった」35%
日本では、見えなくされてきた生理を巡る問題だが、コロナ禍を経て、経済的理由で生理用品を購入できない「生理の貧困」が注目されるようになった。
とりわけ若年層の負担は深刻だ。厚生労働省の2022年の調査では、18歳〜40代の女性3000人のうち、コロナ禍以降に生理用品の購入・入手に苦労した人は全体の8%で、18、19歳と20代が目立った。「収入が少ない」「自分のために使えるお金が少ない」との理由が多かった。
2021年に国際NGOプラン・インターナショナル・ジャパンが15〜24歳の女性2000人に行った調査でも、35%が購入できなかったりためらったりしたと回答。その8割が経済的理由を挙げた。同団体は、生理1回の周期でかかる生理用品のコストは約700円と想定。人によっては痛み止めの薬代なども生じる。
◆「知識の貧困」背景にはタブー意識
ところが、支出の優先順位を尋ねる設問では、食費や交際費、衣類代に比べ生理用品の低さが際立つ。購入できなかった時の対処法は、ナプキンなどの交換頻度を減らした人が7割、トイレットペーパーなどでの代用が37%だった。適切とは言えない対応に、同団体の長島美紀さんは、経済的負担だけでなく、「生理に関する知識の貧困も深刻だ」と懸念する。
どういうことか。長島さんは「日本では性や体に関することを公の場で話しにくく、生理も不浄とするタブー意識が強い。そのため、生理の知識は教育現場より、親から子へ教えられることが多かった」とみる。
そうした中で広がってきたのが、公共施設での生理用品の無償配布だ。内閣府の調査では、2024年10月時点で926自治体が取り組む。窓口配布や、トイレに生理用ナプキンを取り出せる機器を設置する例がある。
◆無料配布で男子生徒に啓発効果も
浜松市では2023年10月から実証実験として市役所や市立高のトイレ内に約40の機器を設置。市担当者によると、「急な生理で困ったので助かった」といった声が...
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