「無意識に加担したかも」金原ひとみさんが性加害問題を今、語る理由

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聞き手=編集委員・森下香枝
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 小説「蛇にピアス」でデビューしてから22年。金原ひとみさん(41)が、出版界を舞台に性的搾取やセクハラ、SNSでのトラブルなどを描いた小説「YABUNONAKA—ヤブノナカ—」を刊行します。これまで、フジテレビ問題、「#MeToo運動」などについて多くを語ってこなかった金原さん。作中の表現にどんな思いを込めたのか、聞きました。

――新刊小説は、芥川龍之介の「藪の中」にちなんだタイトルが付けられ、いろんな世代や立場の男女8人が交互に登場し、出版界の舞台裏や性的搾取、正義感の本質などが語られます。登場人物に自身を投影しているのでしょうか?

 私自身が抱えている多重人格的な側面、矛盾を投影して描いています。小説家はリアルとフィクションをいつも行き来している感覚を持っています。私にとってリアルな日常は小説のヒントやアイデアとなり、フィクションとして膨らませていく。自分の感情を揺り動かすほどのことがリアルで起こると、次の瞬間には小説にしようと思っています。脳内で現実とフィクションという両輪が常に走っている状態です。

 例えば、性加害への怒りを抑えられない私がいる一方で、違う場所からそれを嘲笑(あざわら)うように見ている私もいる。いろんなレイヤー(層)から多重人格的に事象を俯瞰(ふかん)して眺めると、何が正義で、何が誠実なのか、だんだんとわからなくなってしまうこともある。そうなると自分の中で感情のつぶし合いが始まり、コントロールできず押しつぶされそうになることもあります。その苦しさを(作中の)女性作家に投影しました。

――物語は元文芸誌編集長の50代男性が、小説家志望の若い女性から性被害を告発されることを軸に展開します。構想のきっかけは?

 金原ひとみさんの中で性加害は大きなテーマでしたが、これまであえて書かなかったそうです。その理由や今回の構想のきっかけを記事後半で語ります。

 担当編集者から、けっこう前…

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この記事を書いた人
森下香枝
編集委員|ここからTIMES編集長
専門・関心分野
終活、中高年のセカンドライフ、事件など
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2025年4月8日12時27分 投稿
    【視点】

    誰もがさまざまな事情を抱え、自他の心のままならなさに囲まれて生きている。その意味では“同じ”であることを感じ取り、生きることの実感を手繰り寄せることができる言葉との出会いに救われるようなことがある。そんな言葉との出会いを求めて小説を読んでい

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