2023年4月、中央大学法学部は多摩キャンパス(東京都八王子市)から茗荷谷キャンパス(東京都文京区)に移転した。これにより、駿河台にあるロースクール(法科大学院)との法曹教育の連携、及び理工学部(後楽園キャンパス)、国際情報学部(市ケ谷田町キャンパス)との領域横断研究・教育が展開しやすくなった。新キャンパスが学生にもたらすメリットや、司法試験や公務員試験対策の現状などについて、遠藤研一郎法学部長と2名の在学生に聞いた。(写真は中央大学茗荷谷キャンパス。提供:中央大学)
◆法曹を目指す人に魅力的な5年一貫教育が、より身近になった
東京メトロ・丸ノ内線茗荷谷駅から徒歩1分の場所に、中央大学法学部の新キャンパスはある。中央大学の前身である英吉利(イギリス)法律学校の校舎をモチーフにした地下2階、地上8階建ての瀟洒な校舎に、法律学科、国際企業関係法学科、政治学科の学部生と法学研究科(修士・博士課程)の大学院生、あわせて約6000人が学んでいる。
遠藤学部長によれば、新キャンパス開設にあたっては学生のすみやかな移動に加え、授業を安全かつスムーズに実施することが最大の課題だったという。
「おかげさまで混乱もなくスタートできました。多摩キャンパスから移動してきた2年生以上の学生たちもすぐに環境に慣れ、新キャンパスに法学部がしっかり根付いたという印象を持っています」

新キャンパスへの移転には、さまざまなメリットがある。一つは、法学部と同じく都心にある理工学部や国際情報学部との「領域横断研究・授業」がしやすくなったことだ。遠藤学部長は、「法律を学ぶ学生が他の学問領域に触れることは、これからの時代に欠かせない視点」と言う。「例えば道路交通法の改正により23年4月から自動運転(レベル4※)の公道走行が解禁されましたが、他の法律を含めて解釈が定まっていないことも多く、ルールを明確化する議論が進められています。同じような問題は、AIなど科学技術の進歩とともに次々と出てくるでしょう。法律を扱う専門職には法律の運用能力だけでなく、新たな法律を創る能力が求められています。こうした人材を育成するために、私たちは幅広い学問領域での学びを提供する必要があります」
※レベル4/走行ルートなど特定条件下で完全な自動運転
二つめのメリットは、駿河台にあるロースクール(法科大学院)との連携による相乗効果だ。国は司法試験の合格率アップやロースクールへの入学者を増やすことを目的に、学部(法曹コース)を3年で修了し、ロースクールを2年で修了する5年一貫教育を軸とする新たな法曹養成制度を2019年度入学生からスタートさせた。この制度、通称「3+(プラス)2」を中央大学法学部でも実施し、2023年秋に本制度1期生の司法試験合格者が誕生、合格率70%と高い水準を誇った。
「法律学科法曹コースの1年次のカリキュラムは、すべての学生に『3+2』が実現できるように組んであります。希望者を募るのは1年次の終わりですが、このコースを希望するかどうか検討する際に、ロースクールがどのような教育・研究を行っているのかを学生は知りたいところだと思います。今回の移転によって法学部とロースクールが距離的に近くなり、そうした情報がOB・OGから直接得やすくなりました」
◆法学部生の真面目な気質はキャンパスが移転しても変わらない
一方、キャンパスが移転しても「真面目でコツコツと勉強に取り組む法学部の学生気質は変わらないでしょう」と遠藤学部長は言う。法学部では「法曹論」「法曹演習」「法曹特講」など、OB・OGを中心とした弁護士や検事、検察官、国家公務員、企業の経営者など、実務経験者による科目が多いのが特徴だ。こうした授業の多くは少人数制で、レポートの作成や発表も多く勉強はハードだが、「学生たちは課題をきちんとやってきますね」と遠藤学部長は言う。

勉強熱心な学生が多いのは、法曹や公務員志望者の割合が高いことと関係している。
「法曹を目指す学生はロースクールへの進学を念頭に置きつつも、在学中に予備試験を受け、最短ルートで司法試験合格を目指すケースも多く、1年次から勉強に励んでいます。公務員志望者も公務員基礎講座などを受講しながら国家試験に挑んでいます」
近年はとくに公務員志願者が多く、政策の企画や立案を担うキャリア官僚を目指す国家公務員総合職採用試験の合格者が増えている。2023年3月の卒業生のうち、法律学科の20%弱、政治学科の約27%が公務員になっている。
茗荷谷キャンパスの地下2階には、司法試験や公務員試験などの難関資格合格を目指す人が使用できる専用の学生研究フロア(研究室)がある。難関国家試験を目指す学生専用の課外授業施設・自習施設としては多摩キャンパスの「炎の塔」が知られるが、それに引けを取らない学修環境だ。高い目標に挑戦する仲間たちとともに、ここで勉学に励む学生は多い。
「法律問題を中心にグローバル社会で活躍する人材育成を行う国際企業関係法学科では、英語で法学や政治学を学ぶ授業が数多くあり、外資系企業や国際機関で国際公務員として活躍する卒業生も増えています。いずれにしても、どの学科も卒業後の進路として堅実な就職先が多いのが本学部の学生の特徴になっています」

「法学部での学びは仕事のためだけではありません。法律を学ぶことが自分自身の課題解決に役立つことも知ってほしい」と遠藤学部長は言う。「法学部ではよりよい社会をめざして、どのようなルールが適切かを考えます。その中で多数派の意見だけでなく、少数派の人たちの権利をどう守るかに目が向くようになります。マイノリティや貧困などにより困難を抱えている人、国家間の紛争も視野に入って来るでしょう。法学部で学ぶことで、こうした課題を解決するための論理的思考やスキルといったリーガルマインドを身に付けることができます。悩みを抱えている高校生にこそ、法学部に来てほしいと願っています」
◆法学部の学生に聞きました
「中央大学に入ってよかったのは、同じ志を持つ気の合う仲間が大勢いたこと」

中学生のときに外国人技能実習生の低賃金・長時間労働の問題を報道番組で知り、社会問題に関心を持つようになりました。将来は公務員になって社会問題を解決する側に立ちたいと思い、大学を選ぶなかで、中央大学法学部が公務員志望者のサポート体制が手厚いことを知り、進学を決めました。
入学して驚いたのは、同級生たちの真面目さ、勉強に対する熱量の高さです。授業後、多くの学生が先生に質問に行く様子を見て、感化されました。授業では1年次に受講した「法曹論」が印象的でした。講師の検察官がお話された「白い絵の具の中に一滴でも黒が混ざっていたら、起訴はしない」という言葉から、冤罪に対する慎重な姿勢や法律を扱う人の覚悟を感じました。
3年次から所属した「行政法」のゼミナールでは、生活保護やヘイトスピーチ規制に対する判例を研究しました。地方自治体にも監視団体制度が義務付けられているなど、行政法では権力の暴走を抑える仕組みが備わっています。その根底には民主主義や国民主権といった憲法の理念があることが読み取れ、法律の奥深さを実感しました。
国家公務員総合職を目指すため、2年次から大学が開設する講座を受講しました。夏休みは「炎の塔」で集中的に自学。友人の多くが公務員をめざしていたので、互いに励まし合いながら頑張り、無事、試験に合格できました。中央大学に入ってよかったと思うのは、このように同じ志を持つ気の合う仲間が大勢いたことです。
最終学年に新キャンパスに移れたのはラッキーでした。共用スペースにはたくさんのイスやテーブルが置かれていて、空きコマに勉強をしたり、友人たちと会話をしたりする時間が増えました。学食も雰囲気が良くくつろげるので、よく友達と使っています。
2024年の春からは厚生労働省に入省します。将来は外国人労働者や障害者の雇用環境の改善にも貢献できる公務員として従事したいと考えています。
「将来の夢は、企業法務を取り扱う弁護士になること」

高校2年生のときに、授業の課題研究で「死刑制度」に取り組んだことがきっかけで、「弁護士になりたい」と思うようになりました。中央大学法学部は法曹志望者が多いことは知っていましたが、実際に入ってみると想像以上に志望者がいて驚きました。
1年目はコロナ禍のため授業はほぼオンラインでしたが、緊急事態宣言が明けてからは、仲間たちと「炎の塔」で勉強をしました。当時は大学の近くで一人暮らしをしていましたが、炎の塔は朝8時から夜11時まで空いていて、行けば必ず誰かがいるので、孤独感はありませんでしたね。「これ以上できない」というくらい勉強をしたのに、2022年の予備試験に落ちてしまい、弁護士になるのをあきらめかけたのですが、仲間たちの励ましのおかげで気持ちをリセットすることができました。
法学部の授業では、判例が自分の価値判断と違っていると、「なぜだろう」と悩むことが多かったのですが、このときも仲間たちに助けられました。弁護士だけでなく、検察官や裁判官を志望する友人も多いので、違った角度からの意見がとても参考になりました。
印象深かったのは、安井哲章教授の刑事訴訟法ゼミです。基本書や判例をしっかり読んだ上で話を聞くことで、理解が飛躍的に高まりました。そのおかげで2023年には東京大学法科大学院を受験し、合格することができました。
新キャンパスは都心にあるので近隣に飲食店が多く、勉強の合間にリフレッシュしやすいのがいい点ですね。茗荷谷キャンパスの学生研究フロアには、中央大学のOB・OGである専任アドバイザー・指導員の部屋もあるので、わからないことをすぐ聞きに行くことができます。将来の夢は、企業法務を取り扱う弁護士になること。大学で学んだことを糧に、夢を実現したいと思います。
<スタッフクレジット>
(取材・文/狩生聖子 撮影/篠田英美 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ)

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