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2025年度の大学入学共通テストは、新課程になってから初めて行われる共通テストとして注目されました。どのような結果になったのか、また来年度はどうなるのか、専門家に聞きました。(写真=東京大正門、2025年、朝日新聞社撮影)
7年ぶりに志願者数が増加
25年度の共通テストの志願者は、前年比100.7%と、センター試験時代を含めて7年ぶりに増加に転じました。志願者数は49万5171人で、前年よりも3257人増加しています。
18歳人口が24年度の106万3000人から109万1000人と約3万人増加したことや、難関私大で共通テストの利用が拡大したこと、共通テスト導入から5年目を迎えて出題傾向が安定してきたことがその理由と考えられています。しばらく続いた「共通テスト志願者減」は、一段落したと見られています。
河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員は、こう話します。
「18歳人口は長期的に減少傾向にあるものの、ここから2~3年はほぼ横ばいで、グラフで見れば踊り場状態です。共通テスト志願者数についても、しばらくは同様の傾向が続きそうです」
今回の共通テストは新科目として情報Ⅰが追加されたほか、国語と数学②は試験時間が10分延長され、国語は現代文の大問が1問増えるなど、いくつか変更がありました。全体的な印象について、近藤さんは次のように話します。
「新課程最初の共通テストということで、作問者が受験生に配慮したという印象です。センター試験から共通テストに変わった時もそうでしたが、制度の変化が大きい時には点を取りやすくなる傾向があります」
近藤さんの言葉通り、大学入試センターが2月6日に発表した平均点では、新科目の情報Ⅰが69.26点、歴史総合・世界史探究が66.12点、変更のあった国語は前年を10点以上上回る126.67点(200点満点)と高得点になりました。
近藤さんは、その理由をこう話します。
「大学入試センターが22年に新課程に応じた試作問題を公開していますが、今回のテストは問題の構成や分量など、その試作問題とほぼ同じ構成でした。高校の先生は試作問題を元に指導し、われわれ予備校もそれをベースに問題集を作ったり模擬試験を行ったりしていたので、受験生は対策ができていたと言えるでしょう」
もう一つの理由として挙げるのは、共通テストが5回目になり、円熟期に入っているということです。
「新課程とはいえ、多くの科目で出題のパターンは昨年までと変わっておらず、複数の資料が出たり、図表やグラフを多用したり、探究活動の場面が登場したりと、これまでの共通テストのスタイルが踏襲されています。ですから対策が進歩し、受験生も共通テストの出題傾向に慣れてきて、取り組みやすくなったのだと思います」
英語は700語減って、平均点が6点上昇
科目別にみると、情報Ⅰは問題構成が試作問題とほぼ同様で、受験生も取り組みやすかったようです。さらに、教科書の基礎的な内容が出題されたため、平均点も高くなりました。
第3問に現代文が追加された国語も、得点が伸びました。
「これまでの共通テストだと、現代文の第1問と第2問はテキストが複数あり、その中の情報を読み解いて正解を見いださなければならなかったのですが、今回はテキストが1つでした。センター試験を思い出すようなスタイルでした。答えの選択肢も前年の5択から4択に減り、その分、考える時間を短縮することができたと思います」
新課程に対応して出題科目を変更した地理歴史、公民も、平均点は高得点になりました。ただし、歴史総合では、日本史よりも世界史に関する問題が多く出されたため、世界史を中心に勉強してきた受験生のほうが解きやすかったかもしれません。
今回初めて導入された公共には、公共の授業での探究活動、卒業生による講演会など、身近なところから問題文が出されました。
「第1問は男女共同参画がテーマで、日本はいかに女性の活用が世界に立ち遅れているかという視点の問題でした。出題を見て、日本の政治の女性参加率が低いことに唖然(あぜん)とした受験生も多かったのではないでしょうか。学校での勉強はもちろん大切ですが、今回のようなメッセージ性の高い社会問題も、公共という科目にふさわしい内容だったと思います」
英語のリーディングは直近2年は平均点が下がり、特に24年度が難しかったことが注目されましたが、今回は平均点が6点上昇しました。前年と比較して単語が全体で700語程度減少し、さらに解答のマーク数も49から44に減るなど、ボリュームダウンしたためだと分析しています。河合塾によるリーディングの得点分布を見ると、例年は富士山のような正規分布のカーブになることが多いですが、今年は「英語としては異例」(近藤さん)の台形の分布になっています。これは多くの受験者が従来よりも高い得点が取れていることを示しています。

「今回の英語の特徴は、リーディングの問題の中でライティングの力を測る工夫もされていたことです。マーク式なので英文を書かせることはできませんが、たとえば文章の構成を考えさせたり、文章の推敲の力を試したりする問題が出されました。英語4技能のうち、従来のテストでリスニングとリーディングはカバーできていますが、さらにライティングの力も試そうという熱意を感じられました」
理科と数学については、学習指導要領がそれほど大きく変わっていないこともあり、「従来を踏襲していた印象」だと近藤さんは話します。
高校1年生も受験生
新課程初年度の今回は、平均点が高めの科目が目立ちましたが、近藤さんは、来年度は難化すると予想しています。特に点数が高かった情報Ⅰ、国語、英語は注意が必要と言います。
それでは来年度以降の共通テストを受ける受験生は、どのような対策を講じればいいでしょうか。
近藤さんは「まず高校の授業を大切にすべき」と、次のように話します。
「高2から共通テストのことを考える必要はありません。時間の配分など、戦略的な対策は高3の夏からでも間に合います。受験生というと高3生を想像するかもしれませんが、高1、高2の内容からも出題されることを考えると、実は高1生も受験生といえるのです。たとえば情報の授業は高1や高2で行う高校が多いですが、その時にきちんと理解しておけば、いざ高3になって本格的に受験勉強を始めた時に勉強時間を短縮でき、理解も深まります」
定期テストもおろそかにせず、しっかりと取り組むことが肝心です。高1、高2のみなさんは、今の勉強が受験に通じると心して、日々の授業に向き合いましょう。
(文=柿崎明子)

【写真】新課程で初の共通テストは平均点が上昇 「来年は難しくなるのでは」と専門家が分析
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