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AI(人工知能)が急速に普及した社会環境は大学にも大きな変化をもたらしており、「データサイエンス」「情報」と名のつく学部・学科がこれまで以上に増えています。しかし、その中身については、なかなかわかりにくいのが現状です。受験生や保護者がぜひ押さえておきたい「情報系学部の基本」を専門家に聞いて解説します。(写真=東京理科大学提供)
情報系産業で負けている日本
情報系の学部・学科を設置する大学が増加しています。その背景には何があるのでしょうか。
東京理科大学創域理工学部情報計算科学科の滝本宗宏教授は、「2つの危機感が影響している」と言います。
「一つはIT人材が不足している現状への危機感です。メディアが複雑化・多様化した現在、膨大なデジタルデータを正しく扱える人材を育てることは、社会が求める急務です。もう一つは、日本経済の低迷に対する危機感です。残念ながら、日本はこれまで情報系の産業で海外に勝ったことがありません。一部のハードウェアとゲーム業界以外は海外の企業にやられっぱなしで、政府が多くの情報系学部・学科を支援するのもこの危機感のためです。いわば国の起死回生をかけた分野だといえます」
ITをはじめ、新しい産業で日本は出遅れてきました。その原因は「日本の完璧主義にある」という意見も多く、滝本教授も同じように考えています。
「多くのソフトウェアは発売の時点で完成を目指すものではなく、リリースしてからアップデートしていくものです。中途半端な形でも、とにかく世に出してイノベーションを加速させるという流れに、日本は乗ることができませんでした。これは若者の失敗を許さないのと同様ですね。思いもかけない新しいものを生み出すには、トライアンドエラーができる環境で、『面白そうだからやってみよう』と柔軟に取り組めることが必要です」
2025年度の大学入学共通テストからは「情報Ⅰ」が導入されます。しかし、事前に行われた模試では、特にプログラミング分野の平均点が低く、高校教育での課題が浮き彫りになっています。ただし、東京理科大学教育支援機構教職教育センターの渡辺雄貴教授は「プログラミングが情報のすべてではありません」と断言します。
「プログラミングを学ぶには、目的が必要です。いきなりC言語の分厚い本を読んでも、面白くないし、続かないでしょう。プログラミングとは、単にロボットを動かすためのものではなく、アルゴリズムによって問題を解決するためのものです。まず高校の先生がこれを理解していないと、指導も表面的なものになってしまいます。教える側にも教わる側にも意識のアップデートが必要です」

どの学部から発展した形なのかに注目
情報系学部を新設したり、定員を増やしたりする大学は増えています。以下は25年度の状況です。

細分化も進んでおり、情報系はもはや情報を学ぶだけの分野ではなくなりつつあります。例えば、25年度に新設予定の秋田大学の情報データ科学部は、防災や高齢者の生活支援なども研究対象にしています。また、同じく25年度に新設予定の関西大学のビジネスデータサイエンス学部は、その名のとおり、データ活用にビジネスの発想を生かすと公表しています。
こうしたたくさんの情報系の選択肢から受験生が進路を選ぶには、どうすればいいのでしょうか。渡辺教授は「どの学部にあるのかをまずは注目してください」と話します。
「一口に情報系学科と言っても、真理を追究する学問といわれる理学部にあるのか、それとも問題解決を目的に開発する学問とされる工学部にあるのかによって、教育内容が違います。また教授陣の専門分野を調べると、その学科の傾向がわかるはずです」
例えば、25年度に三重大学工学部に新設される電子情報工学コースは、半導体とデジタル技術を学びます。一方、城西大学理学部に新設される情報数理学科は、数理とデータサイエンスを駆使した課題解決力を養います。また、大阪産業大学は現在の工学部とデザイン工学部を25年度に3学部に再編し、新設する情報デザイン学部に情報システム学科を設けます。清泉女学院大学(長野市)は25年度に共学化して清泉大学に名称変更し、人文社会科学部を新設して情報コミュニケーション学科を設けます。同学科は「文系デジタル人材の育成」を目指します。このように同じ「情報」の名称が付いていても、大学によって学ぶ内容が違うことがよくわかります。どの学部の元にあるのか、そもそもどの学部から発展した形なのかをよく見ることで、学ぶ内容に違いがあることが理解できるでしょう。
滝本教授は、理工系の情報分野についても、その違いを次のように説明します。
「コンピューターサイエンスとデータサイエンスは重なる部分も多く、例えるならどちらも計算機を使うものですが、問題への向き合い方が違います。一定のルールを持つ計算機に問題を入力することで、その問題の解決策を出すのがコンピューターサイエンスです。一方、データサイエンスは、データの海の中から解決策を示す計算機を掘り起こそうというもので、こちらは言わばルール自体を探す学問です」
そして滝本教授は、コンピューターサイエンスはその技術を生かしてプロダクトを生み出すことから「つくる人」であり、データサイエンスは「発見する人」であると説明します。自分がどちらになりたいかという観点で考えてみるのもいいかもしれません。

文系の人も無関係ではない
東京理科大学では、26年度に創域情報学部*および、理学部第一部に科学コミュニケーション学科*という、情報系の学部・学科を新設することを計画しています(*いずれも仮称・設置構想中であり、計画に変更があり得えます)。
「受験生に見てほしいのは、大学がどんな機関と連携しているかということです。例えば、医療系のセンターや企業などと共同研究を行い、きちんとデータを用意できる環境なのかどうか。データサイエンスにはデータが不可欠ですが、これを集めることがかなり難しくなっています。どんなデータを取り扱うことができるのかを見極めることも大切です」と滝本教授は話します。
東京理科大学については「実験設備も充実しているし、産学連携なども盛んです。つまり自前のデータが調達できて、数学系のデータサイエンティストが解析し、バイオインフォマティクスの研究者が検証することもできます」と言います。
「これらの情報系の学びは文系の高校生にも無関係ではありません」と言うのは渡辺教授です。
「本学が新設予定の科学コミュニケーション学科では、科学の専門的知識を幅広く学ぶ能力や、その知識を生かした対話力を身につけます。将来的には、メディアや科学コミュニケーターなどの仕事も視野に入るので、文系の人にもぜひ情報系を選択肢の一つにしてほしいです。受験科目のハードルがあるかもしれませんが、新しい学問分野を開拓する『挑戦』ですので、いろいろな人に参加してほしいと思います」
情報系は、数理科学やデータサイエンスだけでなく、コミュニケーションからデザイン、ビジネスまで、学問分野が多岐にわたります。情報系への進学を考えるなら、まずは各大学の学部・学科に関する有用な情報を調べて、学ぶ内容をしっかり知ることが大切です。
(文=鈴木絢子、写真=東京理科大学提供)

【写真】増える情報系の学部、似てる学科が多くて違いがわからない 選び方を専門家に聞く
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