「防災」の探究学習で慶應大に合格 「高校生マイプロジェクトアワード」とは

2025/02/24

総合型選抜では、志望理由書や面接で、これまでの自分の活動をアピールします。そこで注目されているのが「探究学習」です。高校での探究の授業以外にも、取り組みの場が広がっています。大学で行われている探究学習をサポートするイベントや、NPO団体が探究学習を支援する活動の様子について紹介します。(写真は「全国高校生マイプロジェクトアワード2023全国Summit」の様子。写真=認定NPO法人カタリバ提供)

「探究学習」を大学が支援

2022年4月から高校の授業で「総合的な探究の時間(探究学習)」が必修化されたことを受け、高校生の取り組みを支援する目的で探究学習イベントを開催する大学が増えています。

東京都市大学では、探究学習イベント「OPEN MISSION」を開催。ミッション動画を視聴し、探究ワークに取り組んで内容を掘り下げ、自由探究として成果を発表します。発表後には修了証明書が発行されます。

実践女子大学の探究イベント「探究パスポート2024」では、自身の探究学習のテーマから自分の興味や将来学んでみたいことをワークショップ形式で考えていきます。

 札幌大学では、探究学習発表会「HOKKAIDOハイスクールQUEST」を開催。探究テーマのプレゼンテーション後にフィードバックを受けることができます。

NPOも探究学習をサポート

探究学習への取り組みは、民間団体でも行っています。10代を支援する団体、認定NPO法人カタリバが主催する「高校生マイプロジェクト」は、高校生が自分で決めたテーマに沿ってアクションを行い、その過程から学ぶプロジェクトです。

この活動のきっかけになったのは、2012年、東日本大震災の被災地で、高校生たちが「支援されるだけでなく、自分たちも支援したい」と始めた、地域の復興のためのさまざまなプロジェクトでした。そこから、地域や身の回りの課題を解決する高校生のプロジェクトを「高校生マイプロジェクト(マイプロ)」と名付け、全国に展開。 23年度には全国で10万人の高校生が参加しました。こうした活動の中で生まれたのが、全国の高校生たちが年1回、自らのプロジェクトを発表する「全国高校生マイプロジェクトアワード」です。

カタリバの加瀬仁美さんは、「このイベントは、マイプロに取り組んだ高校生が自分の言葉で学びを語り、かつ同世代と交流する場です。それと同時に、大人から応援と助言をもらうことで、今後のプロジェクトを推進する意欲や、次に繋がるヒントを得られる機会になればと、13年から開催しています」と話します。


慶應義塾大学総合政策学部2年の富井優花さんも、新潟県立津南中等教育学校の高校生だったときにマイプロと出合った一人です。
「私が通っていた学校は中高一貫校で、中学1年生から高校3年生まで授業探究学習に取り組んでいました。学校にはマイプロに熱心な先生がいて、参加をすすめられたのがきっかけでした。ちょうどその頃、やってみたいと強く思っていたことがあったのですが、どうやってアクションしていいのかもわからない状態でした。そこでマイプロに参加し、プロジェクトを通して『自分のやりたい』を実現することにしました」

命と防災の大切さ

富井さんがやってみたかったのは、「防災」をテーマにしたプロジェクトでした。

「2004年の新潟県中越地震が起きたのは、私が生まれて8日目のこと。小さな赤ちゃんだった私は、まだ保育器の中にいました。幼いころから両親に、『あなたは周りの人に助けられて今を生きているんだよ』と教えられて育ってきました。そんな私がいつも感じていたのは、大切さと、命を守るための防災の大切さですいつの日か、私も大切な人を守るために、防災を通してプロジェクトを起こしたいと考えるようになりました」

まず考えたのは、地元の小学生に防災の大切さを伝える機会を作ることです。そこで、小学生に防災の出前授業を行うプロジェクトを始めました。

出前授業で発表する富井さん(写真=富井優花さん提供)

さらに小学生だけでなく、地域の人たちにも防災の大切さを知ってもらいたいと、同級生の高校2年生4人とともに防災避難訓練を計画しました。町役場や地方気象台の人と相談しながら訓練の方法を考え、全津南町民約9000人を対象とした大規模な防災避難訓練が実現しました。

防災訓練の様子(写真=富井優花さん提供)

「この頃、私はマイプロのオンラインイベントに参加して、プロジェクトの進め方などをサポートしてもらっていました。このイベントを通じて、プロジェクト後の振り返りもすごく大事だということを学びました。また、このイベントでは、同年代の高校生にも刺激をもらうことができました。コロナ禍で他校の生徒との交流がなかった時代だからこそ、オンラインを通して、同年代の高校生も頑張っていることを知れて、勇気づけられました。そして『全国高校生マイプロジェクトアワード』の地方大会である『全国高校生マイプロジェクトアワード 新潟県Summit(NIIGATAマイプロジェクト☆LABOほか主催)』にエントリーすることを決めました」

出前授業で防災の大切さを伝える(写真=富井優花さん提供)

身近なテーマで行動を起こす

この大会で、富井さんのプロジェクト「大切な人を守りたい」は「ベストラーニング賞」を受賞。この経験は、富井さん自身の成長にも大きな影響を与えました。

「全国高校生マイプロジェクトアワード 新潟県Summit(NIIGATAマイプロジェクト☆LABOほか主催)」(写真=認定NPO法人カタリバ提供)

中でも大きかったのは、「自分を変えることができた」という自信です。

「私はこれまで自分の思いを自分の中に閉じ込めてしまうタイプだったのですが、マイプロに出合って、自分のやりたいことを素直に表に出していいんだと、気持ち変化が生まれました。津南町役場などの行政の方に直接、話をしに行ったり、小学生にどんどん声がけをしたり。そんな私に変えてくれたのがマイプロでした」

チームでの作業は意見のすり合わせなど苦労もありましたが、うれしい出来事もたくさんありました。例えば、小学生に防災の出前授業をした時のことです。

「小学6年生の女の子の1人が、『これまで命について考える機会があまりなかったけど、これから命を大切にしていきたいと思います』という感想を涙目で語ってくれました。プロジェクトを通してできた、思いを伝え共有することの尊さを全身で感じ、思わずウルウルしてしまいました。このプロジェクトをやってきてよかったと思えた瞬間でした」

小学生と防災について話し合う(写真=富井優花さん提供)

マイプロでの経験は、大学進学の際にも思わぬ恩恵をもたらしてくれました。

慶應義塾大学総合政策学部のAO入試(総合型選抜)の面接で、高校時代に力を入れた取り組みについて聞かれ、マイプロでの活動について熱く語りました。面接担当者は熱心に耳を傾け、「素晴らしいですね」と声をかけてくれたといいます。そして無事、合格することができました。「もともとマイプロは総合型選抜のために始めたわけではありませんが、マイプロでの経験や振り返りが大学合格に一役買ってくれたことは間違いありません」(富井さん)

「大切な人を守りたい」という思いは今も変わらない(写真=富井優花さん提供)

現在、大学で防災の研究を続けている富井さんは、23年に「NIIGATAマイプロジェクト☆LABO」が開催した「全国大学生マイプロジェクトフェス」にも参加。「高校生マイプロジェクト」のサポートをしたり、新たなプロジェクトにも取り組んでいます。

 加瀬さんは「プロジェクトというと、将来につながる大きなテーマが必要と思いがちですが、身近にある小さなテーマでもいいんです。何かに挑戦してみること、行動を起こすことが大事なのだと思います。保護者の方にはお子さんのチャレンジをぜひ、応援してほしいですね」と言います。

富井さんの将来の進路はまだ見えていませんが、プロジェクトを通じて輪郭がはっきりしてきた「大切な人を守りたい」という思いは、これからの人生においても大切なテーマになりそうです。

(文=福光 恵)

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【写真】「防災」の探究学習で慶應大に合格 「高校生マイプロジェクトアワード」とは

出前授業で発表する富井さん(写真=富井優花さん提供)
出前授業で発表する富井さん(写真=富井優花さん提供)

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