■特集:大学新時代
大学の授業は1コマ90分が一般的でしたが、100分以上に延ばす大学が増えています。高校の授業はだいたい50分ですから、大学に入って100分授業となると、いきなり2倍の授業時間に変更になります。SNSなどでは「90分授業でも長いのに」「集中力が持たない」という学生の悲鳴も上がっています。授業時間を延ばす大学側には、どんな意図があるのでしょうか。(写真=Getty Images)
100分にすると、何が変わる?
大学の授業時間は、2015年度に東京大学が1コマ105分に延ばしたのを皮切りに、17年度に明治大学と芝浦工業大学が100分に、一橋大学が105分に変更しました。その後も18 年度に法政大学、19年度に上智大学と立教大学がそれぞれ100分に変更し、23年度には早稲田大学も100分に延ばしました。
関東学院大学も19年から検討を始め、21年度から授業時間を100分に変更しました。川出道紀・事務局次長兼教務課長は、90分から100分に変更した理由として、学年暦(1年間の大学のスケジュール)の改善と、授業内容の改善の2つを挙げます。
1年間の大学のスケジュールの改善について、川出次長はこう説明します。
「従来は90分×15週で1つの授業を行っていましたが、授業時間を100分にすると、1週少ない14週で終えることができます。ということは、前期と後期を合わせると授業期間が2週間短縮され、夏休みと春休みが1週間ずつ長くなります。その期間を学生は海外留学や課外活動、インターンシップなどに使うことができます。また資格の取得に必要な学外実習を行う教育学部や看護学部などの学生は、スケジュール調整がしやすくなります。教員にとっても研究期間が増えるというメリットがあります」

2つ目の授業内容の改善については、延びた10分間を使って、授業の最後に振り返りをすることで、学習内容の定着を図れるなどのメリットがあります。成績評価も期末試験だけで決めるのではなく、毎回の授業での小テストやリアクションペーパーなどで学生の理解度や習熟度を確認し、より丁寧な評価を行うことが可能になります。
「毎回の授業をしっかり理解しようという学生のモチベーションを上げることにもつながります」(同)
授業時間の変更は、大学にとっては大きな変化です。川出次長らは、先行して100分授業を行っている大学について調べました。また、近隣の大学ですでに導入していたいくつかの大学にヒアリングしたところ、おおむね「変更時は苦労もあったが、意外に教員も学生も慣れるのは早かった」という回答を得ました。
検討会議では反対意見が続出
しかし、学内の検討会議に提案すると、反対意見が続出しました。授業時間を延ばすことに対して、教員の拒否反応が強かったのです。
川出次長はこう振り返ります。
「90分授業に慣れていた教員から反対意見が出るのは当然です。実際に、『90分でも学生の集中力を持続させるのが大変なのに、これ以上長くなったらどうするのか』という意見は多かったです。そのほか、単に1コマを10分ずつ延ばすと、一日のほぼ最後に組まれている5コマ目の終了時刻が午後7時を過ぎてしまうため、『学生の課外活動やアルバイトに支障が出たり、帰宅時間が遅くなったりして学生が困るのではないか』という意見もありました」
そこで授業開始時刻を午前9時から8時50分に早め、学食やエレベーターが混み合わない程度に昼休みを60分から50分に短縮。さらに、授業と授業の間の休み時間を少しずつ短くするなどして、終了時刻が午後6時40分になるように調整しました。
「遠方から通う教員もいれば、配布資料の印刷など、授業前や休み時間に綿密に授業の準備を行う教員もいます。授業時間の変更についての議論は、予想した以上に時間がかかるものでした」
そのため、何種類ものパターンを作って説明を重ね、何回もの会議での議論を経て、ようやく学内の理解を得ることができました。
10分延ばすだけでも大変
21年度に100分授業が始まると、想定していた成果が表れました。夏休みや春休みが長くなり、学生は留学やインターンシップなどに余裕を持って向き合えるようになりました。授業内容も、毎回の振り返りや小テスト、リアクションペーパーの提出などが多くの授業で行われるようになりました。
「たった10分間の延長は、学外の方からすると地味な改革に見えるかもしれませんが、慣れ親しんだやり方を変更するのは思った以上に大変でした。学年暦と授業内容の2つの改善を目的に始まった改革でしたが、実は個人的には授業内容の改善のほうは確信が持てないまま進めていました。ですから、今の状況には内心驚きもあります」
では、最も懸念されていた学生の集中力についてはどうでしょうか。
「導入前は心配する声が多かったのですが、蓋(ふた)を開けてみると、教員の苦労は多かったと思いますが、特に問題などは起きませんでした。他大学から聞いていた通り、浸透するのは早かったですね。4年目に入った現在、100分授業のメリットはあったと感じています。今後、さらに効果を検証していきたいと思っています」
大学によっては、授業時間を延ばすと同時に、前期・後期の2学期制を4学期制(クオーター制)に変更するところもあります。海外の大学との学年暦の違いを少なくし、学生が留学しやすく、また海外からの留学生を受け入れやすくするためです。これに関連して105分という授業時間を採用する大学もあります。(後編に続く)
>>【後編】大学の授業時間が105分に延びた大学、学生にはどんな影響が? 校門前で反対ビラを配った教員も
(文=仲宇佐ゆり)

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