SNSでパワフルなメッセージを発信し、人気を集める天文物理学者のBossB(ボスビー)さん。X(旧ツイッター)のプロフィール欄には、「息子二人を宇宙よりも愛する母」と書いています。朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長によるインタビュー後編では、20歳と17歳になる息子たちへの思い、子育てをつらいと感じる保護者や進路選びに迷う高校生に伝えたいことを聞きました。(写真=本人のYouTubeチャンネルから)
>>前編 ギャルメイクでバズる信州大学の天文物理学者 離婚して「チラシ配り」から始めた日本のキャリア
息子に教わって始めたTikTok
――動画投稿を始めたのは、息子さんがスマホでTikTokを見ていたことがきっかけだそうですね。
当時中学生の息子が夢中になってスマホを眺めていて、何がそんなに面白いんだろうと思ったら、それがTikTokだったんです。息子からは、動画投稿の仕方も教えてもらいました。最初の頃は勝手がわからなかったのですが、その後しっかり撮影方法を学んで、今に至ります。
――下の息子さんの出産後、7年間子育てに専念されたのですね。育児のために長期間仕事を離れると、もう仕事に戻れないかもしれない、社会から取り残されるんじゃないかという不安を抱える女性も多いのですが、BossBさんはいかがでしたか。
そういう焦りを感じたことは、ありません。自分のキャリアをどうにかしなきゃとか、そういうことを気にして生きたことがないんです。もちろん、私がこれまでに出会った女性の中には、私とは違うタイプの人もたくさんいましたよ。子育てだけの生活は楽しくない、もっと自分の情熱を燃やせることをやりたいという人もいれば、子どもと一緒に泥だらけになって遊んだり、鼻水でぐちゃぐちゃの顔を拭いたりするより、おしゃれして出かけるほうが好きだという人もいるでしょう。何をやれば幸せになれるのか、その答えはみんな違いますから、仕事をすることで幸せを感じられる人は、保育園やシッターサービスを利用して早めに仕事に戻ればいいんです。
――人生で何を優先するかは、自分が何をすれば幸せになれるかを基準にして決めるべきだ、ということですか。
そうじゃないと後から後悔します。子どものために自分のやりたいことを犠牲にするとか、自分の仕事はあきらめて夫のキャリアを支えようとか、そういうことをすると後から恨みつらみになってしまいます。初めから自分の気持ちに正直になったほうがいいんじゃないでしょうか。
――2人目の息子さんを出産した後のBossBさんにとっては、それが子育てに専念することだったんですね。
はい、そうです。子どもと毎日一緒に過ごした7年間は、最高に楽しい時間でした。私が子育てをしていてつらいと感じるのは、子どもがつらい思いをしているときです。子育て自体はつらくないんですよ、全然。子育てがつらいと感じる理由はいろいろあるでしょうけど、もし、自分の子どもの能力や性格が他の子と比べてどうだとか、そういうことが理由で悩んでいるのなら、子どもはみんな違うんだよ、みんなスペシャルな才能、性格を持っているんだよ、と言いたいですね。子どもの特性にも子育ての方法にも、絶対的な正解なんてものは、ありません。

子どもの発達障害は、親の責任ではない
――BossBさんの息子さんは発達障害があると公表していますね。
長男は、強迫観念にとらわれたときにパニックを起こしたり、一つの行動を何度も繰り返したりすることがよくあります。例えば、絶対忘れ物をしちゃいけないという思いにとらわれて、何回もチェックしているうちに学校に行けなくなったり、自転車をこぐ足のバランスが左右対称じゃないことが気になって急に自転車を放り出してしまったり。彼が怖いとか苦しいとか感じている姿を見るのは、つらいですよ。私は研究者なので、発達に関する世界中の論文を読んで、自分なりに治療法も調べました。最近は息子も感情をコントロールできるようになってきましたが、大変なことはいくつもありました。
――BossBさんと同じような状況で、悩んでいる保護者の方もたくさんいると思います。何か言ってあげられることはありますか。
私のSNSにも、発達障害の子どもを育てている人からメッセージが届くことがあります。そういう人たちに言うのは、まず、母親にとって一番大切なのは、子どもたちの健康であり、幸せであるということ。そしてそれを実現するためには、まず育てる側の私たちが幸せであろう、ということです。自分が幸せだと思えない人は、周りの人に「苦しい」と言って助けを求めてほしいです。
――親の中には、子どもが発達障害になったことに責任を感じてしまう人もいるようです。
なぜ、「私のせい」って思うのでしょうか。私のせいだと言えるほどの科学の知識が、その人にはあるのでしょうか。最新の研究でもわかっていない発達障害の原因が、自分にあるなんて言える人はいないはずです。それに、親が自分の責任だなんて言ったら、子どもに対しても失礼ですよ。発達障害の子どもは、産んだ人が責任を感じなければいけないような存在ではありません。人間らしく、豊かに生きている。子どものことを思うなら、堂々と胸を張って生きろ、何が自分のせいや!と言いたいです。私自身も息子の発達障害が自分のせいだと考えたことは、一度もありませんし、だれにもそんな考え方はしてほしくないですね。
大学で自分の道を探せばいい
――高校生が進路を選ぶときに、最近は「自分のやりたいことがわからない」という悩みが多く聞かれます。何かアドバイスはありますか。
やりたいことが見つけられない人こそ、大学に行けばいいと思います。4年間いろいろな講義を受けて自分の道を探索してほしいですね。大学のウェブサイトを見ればそこの大学ではどんな研究をしている先生がいるかがわかりますから、「これは面白そうだな」と感じる研究が一番多い大学を選ぶのも、いいと思います。大学内で見つからなければ、大学外に見つけに行ってもいいですしね。だいたい高校生の年齢で、自分のやりたいこと、大学で学びたいことがきっちり明確にわかるわけがないというか、それをわからせようとする大人が悪い! 悩んでいるお子さんには、そう言ってあげてください。
――受験生の保護者に対してメッセージはありますか。
子どものことが心配なのは、どの親も同じだと思います。私も心配ですよ。でも子どもを自分の物差しで測って、ああしろ、こうしろと言うのはやめましょう。子どもと私たち親世代では、生きてきた時代がまったく違いますし、5年後、10年後はさらにその違いは大きくなるでしょう。 新しい時代を生きる子どもたちに、昭和の古い物差しを当てはめるのは間違いです。もし昭和のやり方が正しいなら、今頃、日本は世界有数の幸福度が高い国になっているはずですが、そうじゃないんですから。まずは子どもを信じましょう。心配はしながらも子どもに自由を与え、必要なときにだけ手を差し伸べる。これが、親の愛です。

プロフィル
本名・藤田あき美 信州大学工学部工学基礎部門准教授。米コロンビア大学博士課程修了(天文物理学)。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックスプランク天文学研究所などで研究活動し、2014年から信州大学で教鞭を執る。20年から始めたTikTokのフォロワー数約37万人、YouTube登録者数約26万人(24年8月現在)。2人の息子は現在、20歳と17歳。
(文=木下昌子)

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