■特集:キャンパスと大学選び
大学キャンパスの都心回帰の動きが目立っています。キャンパスが移転すると、学生にとって変わるのは通学先だけではありません。移転先のキャンパスにある他学部の科目を履修できるようになったり、企業や地域との連携が強まったりするなど、学生の多様な学びに大きく影響するのです。法政大学のキャンパス移転を事例に考えてみましょう。(写真=法政大学市ケ谷キャンパス、法政大学提供)
ジャンルを超えて学び、複眼的視点
キャンパス移転で大きな注目を集めているのが、2030年をめどに経済学部を現在の多摩キャンパス(東京都町田市)から市ケ谷キャンパス(東京都千代田区)に移転することを発表した法政大学です。
今回の学部移転は、法政大学が創立150周年(2030年)を展望して2016年に策定した長期ビジョン「HOSEI2030」に基づいて検討されてきました。市ケ谷キャンパス、多摩キャンパス、小金井キャンパス(東京都小金井市)という3つのキャンパスについて、それぞれの特性を強化するビジョンの中での動きの一つです。小秋元段(こあきもと・だん)副学長はこう語ります。
「都心に位置する市ケ谷キャンパスは、都市型キャンパスにふさわしい教育や研究の場としての魅力を高めていくことになります。経済学部の移転も、そうした前提で議論を尽くして決定しました」
約3900人の学部生が在籍する経済学部は、学内でも最大規模の学部です。移転時の定員は現状から変わる可能性がありますが、大がかりな移転となることは確実です。市ケ谷キャンパスでは、経済学部の移転に向けて教室や研究室などの施設の拡充が検討されています。
多摩キャンパスで充実しているアクティブラーニングの環境などは、キャンパス移転後も重視される方針ですが、移転を機に学生の利便性が向上しそうなポイントがいくつかあります。

まずは、学部をまたいだ学習です。法政大学は以前から他学部の学生でも履修できる公開科目が充実しているのが特徴で、興味のあるテーマについて学部をまたいで学べるようになっています。現在の公開科目数は700超あり、オンライン受講が可能な科目もありますが、同じキャンパス内の学部の授業ならば、リアルで受講できるようになります。
現在、市ケ谷キャンパスには法学部、経営学部、グローバル教養学部(GIS)など8つの学部が入っています。ここに新たに経済学部が加わることで、社会科学系の科目での分野横断的な学習環境がより充実することになりそうです。
「経済学は幅の広い分野なので、他学部の内容も学んで複眼的な視点を養うことは大きな意味を持ちます。たとえば経済学部で環境経済学を学んでいる場合、同じ市ケ谷キャンパスにある人間環境学部の授業を履修することで学びの幅がさらに広がります。労働経済学を学んでいるならば、やはり市ケ谷キャンパスのキャリアデザイン学部が提供する授業は有意義な履修対象でしょう。人間環境学部やキャリアデザイン学部の学生が経済学部の授業を履修する場合にも同じことが言えます」(小秋元副学長)
企業から講師を招く
法政大学ではこうした学び方を学生たちにより体系的に行ってもらうため、「サティフィケートプログラム」という制度を設けています。「SDGs」「アーバンデザイン」「ダイバーシティ」など5つのプログラムから、それぞれの要件に従って学部をまたいだ科目を履修し、設定された課題に取り組むなどすることで、サティフィケート(デジタル証明書であるオープンバッジ)が発行されます。サティフィケートは就職活動などでも学習履歴として示すことが可能です。
「1つの分野を究めることは重要ですが、学生たちには社会に出た時に備えて、幅広いジャンルを学ぶことで、2つないしは3つ自分の強みを作ってほしいと考えています。これから大学を選ぶ方々には、自分が進学する学部以外の授業も受けることができるのか、自分が通うキャンパスには他にどんな学部があるのかも、ぜひ考慮に入れていただきたいですね」(同)
また、経済学部が企業の本社ビルなども多い都心のキャンパスに移転することで、産学連携がこれまで以上に強化されることも期待されます。
たとえば、オフィス街やターミナル駅との距離が縮まることで、ビジネスの現場で活躍している人を講師として招きやすくなります。学生が企業のインターンシップに参加する際や、就活での利便性も増し、勉学との両立もよりスムーズになると考えられます。
キャンパス移転は都心の魅力ばかりが注目されがちですが、法政大学が目指すのはあくまで3キャンパスそれぞれの魅力を高めていくことです。小秋元副学長は「2030年以降も改革は継続される」と、次のように語ります。
「社会学部、現代福祉学部、スポーツ健康学部が入る多摩キャンパスは、広大な敷地を生かしてスポーツや健康に関する学びを促進すると同時に、現代社会の地域課題を解決できるような学びや研究もできる場としてさらに強化していきます。理工系の学部が集まっている小金井キャンパスについては、実習、実験をより安全に行えるように施設の充実化に努めていきます」

専門家の技術を間近で見る機会も
他大学の事例を見てみましょう。中央大学は23年4月に法学部を多摩キャンパス(東京都八王子市)から新設の茗荷谷キャンパス(東京都文京区)に移転しました。
移転によって、法学部と駿河台キャンパス(東京都千代田区)にあるロースクール(法科大学院)が同じ地下鉄の路線でつながって法曹教育の連携がしやすくなり、近隣の理工学部(後楽園キャンパス)、国際情報学部(市ケ谷田町キャンパス)との領域横断の研究・教育も展開しやすくなりました。

北海道医療大学は28年4月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの拠点であるエスコンフィールドを中核とする複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」(北海道北広島市)に、キャンパスを移転することを予定しています。北海道当別町にある現キャンパスから、札幌市へのアクセスがより良い新キャンパスに移転することで、交通の便が向上するだけでなく、学生が教室以外で学ぶ機会が増えることも期待されています。
「医療系の大学は上の学年になると、病院や福祉施設、薬局などの現場で学ぶことが常になっています。スポーツ施設があれば、薬学部ならドーピング問題の研究、歯学部ならボクシングやアメフトの選手に必要なマウスピースの製作、看護福祉学部やリハビリテーション科学部なら障がい者スポーツや故障した選手の理学療法など、本学の学びを間近で見られる機会も多くなる。いろいろな面で、学生と専門家が一緒に研究したり、実践したりということができるようになればと期待しています」(鈴木英二理事長)

北海道医療大学が移転予定の北海道ボールパークFビレッジの完成イメージ図(写真=北海道医療大学提供)
最近キャンパスを移転したり、移転を予定したりしている大学であれば、進学先の学部の周りにはどんな学習環境が広がっているのかを知ることも重要です。
(文=小泉耕平)

【写真】「キャンパス移転」で他学部の授業を履修、増える外部講師…学生の学びに大きく影響
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