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短期大学は地域の身近な高等教育機関として、大きな役割を果たしてきました。とはいえ、18歳人口の減少によって短大の数は年々減少し、厳しい状況が続いているといわれています。そうしたなかで、今の時代にあったメリットにも注目が集まっています。(写真はデザイン美術学科絵画・版画コース絵画専攻「デッサン」の授業の様子=大阪芸術大学短期大学部提供)
芸術系短大はメディアからデザインまで 選択肢が多彩
専門教育で資格などを取って女性がいち早く社会で活躍できる……かつての短大は、そのようなメリットが注目されていました。しかし、今は女性の働き方や生き方も多様化し、短大ならではのメリットも大きく様変わりしてきています。
兵庫県伊丹市にある大阪芸術大学短期大学部は、映像や放送、広告や先端メディアの専攻があるメディアコースのほか、舞台芸術、ポピュラー音楽、声優、ポピュラーダンスの5コース9専攻を擁する「メディア・芸術学科」、アニメーション・デジタルデザイン・ゲームコース、グラフィックデザイン・イラストレーションコースなど8コース11専攻を擁する「デザイン美術学科」があります。
短期大学というと女子のみの学校が多い印象がありますが、大阪芸術大学短期大学部では在学生のうち男子学生が約2割です。一般的な短大の男子学生の割合が1割前後であることを考えると、同短大には男子が多いといえるでしょう。なぜ男子が多いのでしょうか?伊丹学舎事務室の森隆嘉課長は、「やりたいことが幅広くできる」ことを挙げています。
「キャンパスが広くて設備が充実していること、複数の専門分野を横断して学ぶことに対応していること、業界で活躍中の方が教員である割合が多いことなど、複数の要因がある。総じて、学生から『自分のやりたいことができる』と思われていると実感しています。それらの要因が重なり、『女子が通う場所』というイメージがある短大でも、男子も集まるのではないでしょうか」
例えばデザインを学ぶ場合、4年制の美術系大学に入学し、1~2年で基礎を、3~4年で専門性を深めていくのが一般的です。しかし同短大は基礎と専門を2年間で学び卒業します。卒業後の進路には就職するほかに、4年制大学に編入する選択肢もあります。グラフィックデザイン・イラストレーションコースの籠谷貴子教授は、次のように話します。
「私が担当するデザイン美術学科について言えば、入学時に専攻を決めるのではなく、まず1年前期に美術やデザイン、漫画、キャラクターなど自分が興味のある領域の基礎をいくつか選択して学び、後期から何を専攻するか決められるところが、受験生に支持されています。受験の時点で、自分が美術系に行きたいのか、あるいは漫画やアニメなどカルチャー系に行きたいのか、デザイン系に行きたいのかがはっきりしている学生は少数派。実はまだ決めかねている高校生が非常に多いと思います」
4年制大学への編入も
一般的に短大のメリットといえば、4年制大学よりも早く社会人になり、同世代よりも早くからキャリアを始められることが挙げられます。また、短大は2~3年で特定分野の内容を学習するため、その分野での就職に強くなるというメリットもあります。他の短大でも、例えば平成医療短期大学の看護学科(20年度卒業生)、帯広大谷短期大学の全学科(22年度卒業生)などは、就職率が100%となっています。
一方で、短大卒業後、別の4年制大学に編入するなど、就職以外の進路を選ぶ学生も少なからずいます。文部科学省の調査によれば、全国の短大から4年制大学などに編入、進学する学生の割合は、19年度に8.5%、20年度に9.2%、21年度に10.1%、22年度に11.1%となり、短大から大学などへと進学する割合は少しずつ増えています。なかでも大阪芸術大学短期大学部は、グループ校に大阪芸術大学があるため、デザイン美術学科では卒業生の約30%が大学に編入学しています。
「もちろん2年で卒業して、学んだことを生かしてスペシャリストとして仕事に就く学生もいれば、学んだことは趣味として継続して、全く違う分野の仕事に就く学生もいます。4年制大学への編入も含めて、18歳の時点では結論を出さずに将来の選択の幅を広げ、20歳でもう一度自分の進路を選択できることは、学生たちにとってのメリットでしょう」(籠谷教授)

短大の学費、大学に比べると…
さらにもうひとつ、経済的負担が少ないことも、短大の魅力の一つです。大阪芸術大学短期大学部伊丹学舎事務室の森課長はこう話します。
「大阪芸術大学とはグループ校ということもあり、過去の実績ではほとんどの志望者が編入できるほか、編入した場合は大学の編入学金が免除されます。そもそも短期大学は、授業料など費用の総額が4年制大学に比べて少ない。また芸術系大学は授業料が高いと言われますが、短期大学である本学は一般的な芸術系大学に比べて授業料が年30万〜40万円安くなる場合もあります」
実際、文科省の調査(21年)でも、短期大学の2年間の学費は平均201万7557円、 4年制大学は4年間で平均469万467円と、4年制大学の授業料に比べて短期大学の授業料は4割程度になっています。
さらに大阪芸術大学短期大学部は給付型の奨学金が充実しています。
「本学には給付型の奨学金である特待生奨学金制度があり、35万円×2年間の総額70万円を支給しています。募集人数は毎年170人。この奨学金の特徴は、免除ではなく給付されるので自分で使途を決められる点です。免除型は学費に自動的に充当されますが、給付型は学費に充てるだけではなく、PCや教材、国外にも目を向けるための資金など、自身の知見を広げるために使用することもでき、有効的に自分へ投資できるところがこの奨学金の魅力になります」
リーズナブルな費用と広がる可能性。短大という選択肢には、以前とは異なるメリットがあると言えそうです。
(文=福光 恵)

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