■大学トレンド

各大学がChat(チャット)GPTなどの生成系AI(人工知能)の利用に関するガイドラインを相次いで発表しています。AIの力を学びの世界でどのように使いこなしていくのでしょうか。その方針は大学によってさまざまです。

教員の指示に従うことが大前提

2023年に入ってからChatGPTが世界的に広がり、生成系AIとどう付き合うかは、避けて通れないテーマになりました。大学の方針はさまざまですが、全面的に使用を禁止するのではなく、教員の指示に従うことを前提とした大学が多い印象です。

国内の大学でいち早くその見解を表明したのは、東京大学でした。2023年4月3日、生成系AIの利用を全面的に禁止するのではなく、教育効果を最大にすることを第一目標として、各教員の判断に委ねるという見解を示しました。そのうえで、情報の信ぴょう性をはじめ、機密情報や個人情報の取り扱いの注意、著作権への配慮を促し、「積極的に良い利用法や新技術、新しい法制度や社会・経済システムなどを見いだしていくべきではないでしょうか」と提言しています。

この見解を発表した太田邦史副学長は、「新しい技術のネガティブな面だけに目を向けるのではなく、チャンスとして積極的に捉えていく姿勢をはっきりと示しておきたかった」と述べていました。

東京外国語大学では、「ChatGPT(あるいはその先に現れる多様なAI)は、学生が社会に出たときには使いこなすことが求められるツールになっていると思われます」ということを前提にしています。個別の授業での AI の利用については「授業の特性に応じて、禁止、制限的な活用から積極的な活用にいたる幅広い対応が想定されるため、担当する教員の判断に委ねることが適当と考えられます」としています。

慶應義塾大学は、「学部・研究科や担当教員が生成AIの利用を奨励もしくは許可する場合には、当該教員等が示す方針のもとで適正に活用してください」と求めています。生成系AIを使ってレポートなどを作成した場合は、「その旨を明記することが必要」と記しています。

論文やレポートでは使用NGの大学も

具体的な注意・禁止事項を明記している大学もあります。

横浜国立大学は、「生成AIに個人情報や部外秘情報を入力しないこと」「生成AIの出力を自らの成果・著作・創作としてそのまま使用しないこと」「生成AIが出力する情報を鵜呑みにしないこと」と注意を促しています。

成績評価の対象となる論文やレポートなどについては、使用を認めない大学もあります。日本大学は、「生成AIのみによって生成されたものを学生独自の成果物とはみなすことができません」と明記しています。上智大学も「ChatGPT等のAIチャットボットが生成した文章、プログラムソースコード、計算結果等は本人が作成したものではないので、使用を認めない。検出ツール等で使用が確認された場合は、本学の不正行為に関する処分規程に則り、厳格な対応を行う」と強い表現で伝えています。

積極派の立命館大学では英語授業で実用

一方、筑波大学芝浦工業大学などのように、生成系AIを積極的に有効活用していく方針を示している大学もあります。その中でも早々にガイドラインを発表し、生成系AIを授業に取り入れているのが立命館大学です。

立命館大学教学部長の中本大教授は次のように話します。「立命館大学では、むげに生成系AIの利用を抑制するのではなく、長所や短所をしっかりと見極め、すでに指摘されている倫理的な問題をクリアしながら積極的に利用していく方針です。喫緊の大学教育の課題としては、教員、学生ともに生成系AIでできること、できないことを早い段階で学び、AIリテラシーを醸成していくことにあると考えています」

学生たちはAIと上手に共生

立命館大学では、ChatGPT が登場する前の22年9月から、「プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)」の授業で機械翻訳サービス「みらい翻訳」を取り入れていました。23年4月から9月までは、生命科学部、薬学部のPEP受講生を対象に、機械翻訳とChatGPTを組み合わせた「Transable(トランサブル)」という英語学習ツールを試験導入しました。このツールでは、日本語の文章を入力するとAIチャットボットが適切な英文にして提案し、その英文が適切とされる理由も解説してくれます。

英語学習ツールTransableを使用した授業の様子

PEPを担当する生命科学部の山中司教授は、次のように語ります。

「新しいテクノロジーを使うということもあり、学生たちはとても楽しそうに取り組んでいます。とはいえ、生成される英文をそのまま自分の発信に使うようなことはしません。まず生成系AIでたたき台を作り、それを自分たちで修正していきます。英文表現が難しすぎて学生が理解できないこともありますし、ありきたりな表現で面白みや個性に欠けることもあります。私たち教員が思っている以上に、学生たちはうまく使いこなしてAIと共生していると思います」

教員のあり方が変わる時代

山中教授は、これからの大学教育では教員の課題の出し方が問われてくるだろうと言います。

生成系AIを使えば簡単にできてしまうような課題は無意味です。例えば、私のプレゼンテーションの授業では、生成系AIを使っても良い代わりに、出力されたものをそのまま読み上げることは禁止しています。すべて自分の頭の中に入れて、あたかも自分が考えているように話しなさい、と指導します。そうなると、自分の能力以上の英語力があるChatGPTや機械翻訳が出力したものは難しすぎて、丸暗記できる範囲のボリュームでもないので、学生自身が編集して自分が扱える英語にする必要が出てきます。これは全く新しい英語学習方法です。母語を使って同レベルの英語表現に触れられますし、この作業を何回も繰り返していけば英語力がつくと思います。学生たちが定期的に受けているTOEICの点数を見ても、統計的に下がってはいません

山中教授の英語の授業では、日本語文を自力英訳、機械翻訳、Transableによる英訳の3種類で回答し、ほかの学生が、それぞれどの方法で訳されたかを考える取り組みが行われています。

山中司教授による英語の授業 生成系AIを使った文章を検証

そして、今後について次のように予測します。

「ゆくゆくはAIによる個別最適化学習が可能になり、学生が無理なく効率的に学習できるようになるでしょう。教科を教えること自体はAIに任せて、教員の役割は学生らとのコミュニケーションや学びの場づくりなどに変わっていくのではないかと思います」(山中教授)

生成系AIは大学の授業を大きく変えるツールになる可能性もあるのです。

(文=岩本恵美、写真=立命館大学提供)

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