海外留学の学費、年間1000万円ケースも 「絶対無理」と思う前に検討すること

2023/09/11

■大学受験の基礎知識

「海外の大学に行かせるなんて絶対無理」。経済的な事情からそう考える保護者は少なくありません。確かに授業料は日本の大学よりも多額の費用がかかりますが、海外の大学は奨学金制度が充実するなど、学費を抑える方法があります。子どもが海外の大学への進学を希望した時に応援できるよう、費用面での準備について紹介します。(写真=オックスフォード大学の入学式で、柳井正財団提供)

進学先として人気のアメリカ 学費は高額

海外の大学に進学する場合、主に渡航費、授業料、滞在費(家賃あるいは寮費、公共料金)、生活費(食費など)、海外留学保険料などがかかります。このうち最も金額が大きいのが授業料です。国によって異なりますが、進学先として人気のアメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアなどは、一般的に日本の大学よりも授業料がかかります。特にアメリカは公立、私立ともに世界で最も学費がかかると言われています。昨今は円安のため、なおさらです。海外トップ大進学塾「Route H」で個々の塾生に合わせた海外進学支援を行っているベネッセ海外進学・グローバル教育事業責任者の辻村慎乃介さんはこう話します。

アメリカの大学の授業料は安くても1年間で300万~600万円、名門大学は800万~1000万円程度かかります。その時点で断念するご家庭も多いのですが、アジアやヨーロッパであれば、授業料が日本の国立や私立大学と同じくらいの大学や、授業料無料という大学もあります。アメリカの中にも授業料が100万~150万円程度の大学もありますが、『海外の聞いたことのない大学に行くくらいなら、日本の有名大学に行ってほしい』という保護者の方は多いです。しかしながら、日本では名の知られていない大学でも世界ランキング(World University Rankings)では、日本の有名大学よりも上位というケースは珍しくありません」

このように経済的な事情を考えて、国や大学を選ぶのも一つの方法です。

返済不要の奨学金制度もある

また、海外の大学は奨学金制度を設けている大学があるほか、最近は海外留学生向けに国内で様々な奨学金制度が出てきているため、奨学金を上手に利用して進学する手があります。奨学金は大きく分けて、返済義務がある「貸与型」と、返済不要の「給付型」がありますが、給付型は倍率が高く、書類選考や面接を経て、給付を受けられるかどうかが決まります。

給付型の奨学金制度は、公的な団体のほか、民間の企業や団体が実施しており、支給額や応募資格・条件、募集期間、対象国、対象大学などが異なります。公的な団体では、文部科学省所管の独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が実施している奨学金制度があり、民間では「柳井正財団 海外奨学金プログラム」「笹川平和財団スカラシップ」「グルー・バンクロフト基金奨学金」などの制度があります。

アメリカのトップ大学は年間1千万円が必要

2017年から給付型奨学金の支給を開始した柳井正財団は、23年までに約240人の奨学生をアメリカ、イギリスのトップ大学に送り出しています。対象となるのは日本国籍があり、国内外問わず高校に在籍している学生です。特徴としては、年間9万5千ドル=約1330万円(イギリスは6万5千ポンド=約1180万円)が上限という高額な支給額です。4年間(イギリスは原則3年間)、大学ごとに必要な費用(授業料、寮費、保険料)が支給され、別途、学習・研究・生活支援金として年間1万5千ドル(イギリスは1万1千ポンド)も支給されます。

同財団の石田吉生事務局長はこう話します。

「当財団で調査したところ、アメリカやイギリスの大学に進学し、生活するには、合計で年間1千万円近くかかります。経済的な理由で海外での学びを諦めてほしくない、アルバイトをせざるを得ない状況に追い込まれず学業に専念してほしいと考え、支給額を決定しています」

同財団は15年に、ユニクロを展開するファーストリテイリング創業者の柳井正氏が、最近の日本の若者について「内向き志向で、挑戦を避ける傾向がある」と強い危機感を抱き、私財を投じて設立しました。

「当財団が求めるのは、海外で世界を見て学びを深め、その経験を生かして日本社会に貢献したいという思いがある学生です。これまでいかに優秀だったかということよりも、今後やりたいことへの情熱、やり抜く力などを重視して奨学生を選抜しています」(石田事務局長)

奨学金の支給が決定するのは大学の合格前? 合格後?

これらの奨学金制度を利用する場合、海外の大学への出願準備と同時に、奨学金制度に応募するための準備を進める必要があります。ただ、石田事務局長は「応募に際して学生に負担がかからないように配慮している」と言います。書類を提出する必要はありますが、基本的には海外大学の出願に必要な書類と内容が重なります。

応募書類には課外活動や学業成績(TOEFL® iBTやIELTS™のスコア、高校の成績、大学進学適性試験SAT®やACT®のスコア)を入力するほか、「自分が目指す将来の姿」「大学で何をしたいのか」といったテーマのエッセーが必要になります。書類選考を経て1次面接、最終面接へと進み、合否が決まります。

同財団は、応募のチャンスが年に2回あります。1回目は7月中旬から応募が始まり、9月末に合否が決まります。大学の出願前に合否が決まる「予約型」です。2回目は12月末から応募が始まり、合格した大学の情報を伝えた後に面接を受ける「合格型」で、4月中旬までに奨学金の合否が決まります

1回目が不合格であっても、再チャレンジが可能です。1回目は高校からの推薦が必要、かつ支給の対象になる大学が決まっていますが、2回目の応募には高校の推薦は不要で、支給対象の大学と同レベルの大学であれば認められる場合があります。募集人員はそれぞれ年間20人程度。年々応募人数が増え、22年の倍率は10~15倍程度でした

採用された奨学生には、海外大学への進学に積極的な私立高校の出身者だけではなく、地方の公立高校の出身者や、一人親家庭の生徒なども多いといいます。「保護者の方からは『諦めなくてよかった』『子どもの夢をかなえられてよかった』といった声をいただいています」(石田事務局長)

奨学生仲間が海外生活での心強い存在に

親元から遠く離れて海外の大学に進学するとなると、保護者としては不安も大きいはずです。奨学金制度は、費用面だけではなく、奨学生同士のつながりができるというメリットもあります。同財団では、渡航前に事前合宿や交流会を実施し、奨学生同士が交流する場を設けています。

「奨学生のバックグラウンドや進学先は多岐にわたるため、お互いに刺激を受けながら切磋琢磨し、留学中や卒業後もつながりを生かしてほしいと思っています。交流会には奨学生の先輩も参加するので、海外生活に対する不安なども相談できます」(石田事務局長)

渡航前の事前合宿(2022年)。大学は違っても、同じ奨学生としてよき相談相手に。卒業後も交流が続いているケースが多いといいます(写真=柳井正財団提供)

奨学金制度が充実してきているとはいえ、返済不要の給付型の場合、審査は厳しくなります。支給額が多い場合、基本的にほかの奨学金と同時に支給を受けることはできませんが、併願は可能なのが一般的です。このため、一つの奨学金制度で不採用だったとしても、諦めないことが大事です。また、進学先の大学によっては留学生向けに奨学金制度を設けている場合もあります。

奨学金制度の応募要件は様々で、同じ団体の奨学金でも年度が変わると、変更点が出てくることがあります。ホームページで最新の応募要項をチェックしたり、奨学金制度の主宰者が開くオンライン説明会などに参加したりすることをおすすめします。

(文=中寺暁子)

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