■特集:大学受験・進学にまつわるお金
大学受験にかかる費用は、受験校数や、志望する学部・学科、自宅から通える大学かどうかなどによって異なりますが、実際のところ、どのくらいかかるのでしょうか。一人娘が都立高校から、第一志望の国立大学教育学部に合格した小山隆さん(仮名)のケースを紹介します。(写真=Getty Images)
コロナ禍で始まった高校生活 予備校からいきなり数十万の請求書
娘は都立高校に入学後、まもなく、大手予備校に通い始めました。私が見る限り、目的は勉強ではありません。コロナ禍で学校の授業はオンラインが中心になり、部活も禁止という中、同じ高校の生徒が多く通う、その予備校に行くことで、少しでも生活を楽しいものにしたかったのだと思います。
理由はどうあれ、親は子どもが塾に機嫌よく通っているなら、勉強は大丈夫だろうと安心します。一人娘で、私たち親は共働き。「お金のことは気にせず、大学受験に向けて頑張れ!」という姿勢でした。とはいえ、予備校からの授業料の請求がいきなり数十万円単位で来たときは、「これは何のお金だ?」とあわてました。後日、娘が私や妻に相談しないまま、ネットから夏期講習を大量に申し込んでいたことがわかり、さすがに気をつけるようにしました。
コロナが沈静化し、部活や体育祭に全力投球
進学校だったため、受験は早くから意識しており、第一希望は自宅から通える国立大学と決めました。教育学部を志望した理由ははっきりとはわかりませんが、小学校の頃から、子どもたちのためのボランティア活動をしていた影響があるのかもしれません。幸い高2までは成績も悪いほうではなく、模試の結果ではその大学の合格に手が届くところにいました。
ところが、高3を迎える頃、コロナがやや収まってきたことで、徐々に制限が緩和され、運動系の部活や体育祭などもコロナ前とほぼ同じように実施できることになると、状況が変化しました。
「私は青春したい。部活、体育祭をめいっぱい楽しんで、余力があったら勉強する」
娘ははっきりとこう宣言しました。
娘らしいといえば、娘らしい。コロナ禍で普通の高校生活を送れなかった様子を見ていた親としては、娘の気持ちも尊重したい。「大学受験が近いのに大丈夫だろうか」と心配しつつも、見守ることにしました。
共通テスト直前に受験科目の変更 予備校の授業が無駄に
娘は宣言通りに有言実行した結果、定期テストの成績はもちろん、模試の成績も急降下しました。周囲の多くが受験モードに切り替わる夏も娘は部活に全力投球し、本格的に受験勉強を始めたのは9月から。「あわよくば」と第一志望大学の総合型選抜、学校推薦型選抜に出願したものの、たて続けに不合格となり、さすがにモチベーションは、ダダ下がり……。妻も娘と一緒に落ち込んでしまい、家の空気は最悪でした。
ようやく一般選抜に向けて気持ちを切り替えたように見えた矢先、娘は大学入学共通テストの社会の受験科目を変えると言い出しました。予定していた科目の勉強がうまくいかず、本番で点を取る自信がないというのです。そこで急遽、予備校で新たな科目の講座を受講することになりました。妻は、「これまで2年以上、受講してきた講座が受験に関係なくなって、まるごと無駄になってしまった」とぼやいていました。
押さえの私立大で合格できず、出願校をあわてて増やす
年明けの一般選抜が始まり、さらに試練は続きます。国立大学の2次試験の前に合格を確保するために受けた私立大学すべてが不合格だったのです。受験日の早い大学が不合格だったため、あわてて追加出願し、結果的に受けた私立大学は4校。共通テスト利用入試も含めると6回の受験となりました。
娘は浪人覚悟だったので、滑り止め校は受けませんでしたが、連日の試験で頑張っているのに、結果が出ない姿を見るのはつらかったです。無理にでも滑り止め校を受験させて、合格が取れる確率を高める工夫をしていれば、あんなにたくさん受けなくてもよかったのかも、と今になって思います。また、計算してみると、思いがけず受験料がかさんでいて、驚いてしまいます。受験の渦中にいると、金銭感覚が麻痺してしまうので、これから受験を迎えるご家庭は要注意です。
それでも背水の陣で挑んだ第一志望の国立大学がまさかの合格で、我が家は結果オーライとなりました。共通テストの出来はいいとはいえず、その大学の2次試験も微妙だったと聞いていただけに本当に驚きました。うれしさのあまり、合格発表の日からしばらくは親子で浮かれていました。
入学後、娘がまさかの独立宣言
しかし、そこから想定外の思わぬ事態が起こりました。それは入学式が終わって2週間ほど経った頃、「一人暮らしをしたい」と娘が突然、言い出したのです。
娘は入学早々、ある体育会系の部活に入りました。部活は毎日、朝練があり、集合は6時半。我が家から大学までは電車とバスを乗り継いで1時間20分ほどかかります。このため、朝5時過ぎに家を出る生活が始まりました。これがつらいので、大学のそばに住みたいというのです。気持ちはわかります。
でも、妻は、「自宅から通えるところを条件に大学を選んだでしょ! ダメよ」と娘とのバトルの日々が続きました。私には娘からLINEで、「お母さんをなんとかしてほしい」と泣きが入ります。「国立大学に入ったのだから、ほかのことに少しくらいお金がかかっても、大めに見てほしい」というアピールもそれとなくしてきます。
お金の問題もありますが、親としては一人暮らしの心配のほうが大きく、結論が出ない中、娘は、友だちの家に泊まるようになりました。つまり、自宅に帰ってこなくなってしまったのです。それで、泣く泣く一人暮らしを許可することにしました。娘の戦略勝ちかもしれません。
一人暮らし開始で40万円以上の出費
バトルが終わったのはよかったのですが、その結果、一人暮らしの費用が急きょ、必要になりました。時期的にも条件のいいアパートやマンションはすでに埋まっていて、入居を決めたセキュリティーのしっかりした1Kの賃貸物件は家賃7万円。不動産の仲介手数料や引っ越し費用、新生活に必要な家具や家電など、初期費用に40万円以上かかりました。すでに学費やパソコン購入費、部活のユニホーム代などで、100万円以上を支払っていた上に、この金額が加算されたわけです。
妻は、「寮に入っていれば、もっと安くすんだのに」と今でも言っています。一人娘がいなくなったさみしさもあるようで、いまだに落ち込んでいます。
一方で、妻とは今回の経験をふまえて、「留学した場合の費用」「大学院に進んだ場合の費用」など、今後、必要になるかもしれないお金の話をするようになりました。留学も大学院も具体的な相談をされたわけではありませんが、仮に言い出されたら急に用立てられる金額ではありません。今からやんわりと、「留学するなら物価のことなども考えて」などと娘に伝えておくことも必要かなと思っています。
(文=狩生聖子)
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