お別れの日が怖いけれど、時間の許す限り母のことを知りたい

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
高山恵美子(仮名) 42歳
主婦
千葉県在住
◇
数年前からがんの闘病をしている70代の母に、お花を贈っていただきたいです。
私が大学進学で家を出てから27年が経ちました。今は子育ての真っ最中です。母と会うのは年に数回、電話は近況報告でたまにします。「効く薬がもう少ない」と聞き、遠くない先に母のいない日が来る事を覚悟しなくてはと感じ始めてから、電話で母の調子を聞くのがとても怖くなりました。
この先あと何回くらい母に会えるのだろう、と思うと現実から目を背けてしまう自分がいます。今すべきことが何なのか考えなくてはならないのに……。電話でも、他愛のない話ばかりしてしまう自分。母に人生を振り返ってもらうような話を聞いてしまうと、お別れの日が本当に来てしまう気がして、怖くてたまらないのです。
そんなとき「花のない花屋」のエピソード募集を見つけ、こちらをきっかけに母と向き合いたいと思い応募しました。
母に「ありがとう」を伝えたいのと同時に、私は母のことを知りたいです。いつも自分の事で精一杯だった私。さっぱりした性格で聡明な母に、私はとても自由に育ててもらいました。何事も「自分で考えて決めなさい」と言われたのを覚えています。
「一見自由だけどあの一言は、自分の行動に責任を持ちなさいよという意味。かえって適当な事はできないという、言葉の重みがあったよね」。兄と子どもの頃の母を思い返して、笑いながら話したことがあります。
今こそ母が何を考え、どう生きてきたのか、人生の先輩として話を聞きたい。今の私と同じように子育てをしていた時に思った事、振り返って感じている事、そして今何を思っているのか……本当は時間の許す限り、そんな話を聞きたいのです。
ぜひ私の背中を押していただきたいです。

花束をつくった東さんのコメント
お母様へ、春のお花を組み合わせたあたたかな色味のアレンジメントです。
「おかあさんに、ありがとうと伝えたい」
そんな暖かい気持ちを表現するアレンジを作りました。優しいサーモンピンクを中心に、力強い生命力を感じてもらえるように、真ん中にギュッと集めたのはチューリップ。聡明で、芯の強いお母様をイメージしています。アカシアやラナンキュラスなど、春らしい花材も満載です。
お花をきっかけに、おふたりが心を開いておしゃべりしていただければ。そんな気持ちで送り出しました。




文:福光恵
写真:椎木俊介
Azuma Makoto Exhibition「X-Ray FLOWERS」
東信さんの個展が京都で開かれます。
2025年3月20日(木)~30日(日)
11:00 – 18:00 (17:30 最終入場)
京都新聞ビル地下1階 入場無料
詳しくはこちら AMKK
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
応募フォームはこちら
