花の名前を覚えなかった娘 突然の別れの後の贈り物

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
武山あずささん 64歳
主婦
富山県在住
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娘は花の名前を全然覚えない子でした。
庭に咲く紫の花を指して「これは?」と聞くと「知らん」。「正解! 紫蘭(しらん)だよ」。これで覚えたかと思い翌年また聞くと、「『覚えてない』みたいな意味の名前だったから『忘れ草』!」。
また、金魚のような花の形をしているから「金魚草」、ドルフィンのような蕾(つぼみ)の形をしているから「デルフィニウム」と教えたときには、後日、デルフィニウムを見てこう言いました。両者が混ざり、おまけにドルフィンとマナティまで混ぜてしまって、「人魚草」と…!
それでも、花の話題を出すと私が喜ぶのを知っていて、こんな花が咲いてたよ、あんな花を見かけたよと、よく教えてくれました。
「校門の前にいい匂いの白い花が咲いてたよ」(クチナシです)。
「ベランダから小さい白い花が見えるよ」(マートルです) 。
大学では漆芸を学び、花々のデッサンも見事でしたが、それでも名前を覚えないままでした。卒業後は、結婚式場を備えたレストランで、室内装飾や料理のデザインなどの仕事をしていました。
そんな娘が突然、27歳で亡くなってしまったのです。
とめどない涙を流しつつ、棺に納める花を手に取り「これがアルストロメリア、これがトルコキキョウ」と教えながら、眠る娘の胸元に手向けることしかできませんでした。
失意の日々のなか、亡くなった翌月に切り花がいきなり届いたのです。贈り主は生前の娘。半年間のサブスクとして、私に花を届ける手配をしてくれていたことを初めて知りました。
最初のお花は、真っ白で輝くようなデンファレでした。それから月一でケイトウ、ネリネ、グロリオサ、ノイバラの実と届き、最後が私の誕生月に合わせてあったようで、透き通るような白のラナンキュラスでした。私が無意識に白い花に惹(ひ)かれることを、娘は感じ取ってくれていたのかもしれません。
娘が亡くなって5年の歳月が過ぎたところです。哀しみが癒える日が来るとは思えませんが、これからも遺影の前に花を飾り、娘と花談義を続けて行けたらと思っています。
娘が亡くなってから、家族の記念日や、彼女の話を親しい人としているときなどに、とあるものを見ることが多くなりました。大きな虹です。夫が運転中に眠気に襲われたとき目の前に虹が出て、目が覚めたこともありました。「虹をたどってまた会いに帰ってきたよ」という娘からのメッセージと感じています。
娘からのお花はもう届きません。その淋しさを東さんに託したく投稿いたしました。わがままを言えば、何かひとつ枯れない品種を入れていただけると、時間をかけて育てていく楽しみができます。どうぞよろしくお願いいたします。

花束をつくった東さんのコメント
娘様との思い出の白い花々を組み合わせたアレンジメントです。
お母様が白い花に惹かれることや、お子さんから白い花を贈られた思い出がご投稿にあったので、白とグリーンの花材を集めたアレンジメントを作りました。長く楽しんでもらえる花材として、チランジアというエアプランツの仲間を入れてあります。月に一度、10分ほど水につけていただくだけで、土も水やりも不要です。
一方、ユリ、スイートピー、フリージアなどのお花からは、春のお花ならではの柔らかい香りを感じてもらえるはず。つらい日々を過ごしていたご家族が、少しでも穏やかな気持ちになれますように。




文:福光恵
写真:椎木俊介
Azuma Makoto Exhibition「X-Ray FLOWERS」
東信さんの個展が京都で開かれます。
2025年3月20日(木)~30日(日)
11:00 – 18:00 (17:30 最終入場)
京都新聞ビル地下1階 入場無料
詳しくはこちら AMKK
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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