すぐに会いに行けない距離にいる両親へ 穏やかな二人の時間を彩る花束

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
粟屋明子さん 53歳
営業
千葉県在住
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「お花、贈ろうか」
母の日が来るたびにそう尋ねる私に、「庭の花を切って飾るのが好きだから」と微(ほほ)笑んでいた母。たしかに母の手入れする庭は、いつも美しく整えられていました。夏にはオーロラのように朝顔が波打つ壁を作り、母のお手製の七夕飾りが、玄関を飾ります。秋には鈴虫を放して「いとをかし」な空間が演出され、冬は雪祭りの出し物かというほど精巧に母が作った雪像が現れる……そんな庭でした。
季節の花はさりげなく配置され、サビひとつなく手入れをされた昔ながらの花切り鋏をもって、庭に出る母の姿がそこにはありました。庭ばかりではありません。食器、調理器具、家具など、生活のすべてが、美しく整えられていました。
ところが昨年の夏から、そんな母は寒冷凝集素症を発症。とくに冬などは寝込むことが多くなったといいます。それでも家事全般が苦手な父と二人暮らしを続けています。
父も脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症を患いながら、母を病院へ連れて行き、米を担いで、灯油を運んで、と家事ができない分せっせと力仕事を担って頑張っています。そうして助け合って暮らしている88歳の父と84歳の母。
すぐに会いにいけない距離に住んでいる私たち夫婦は、一緒に住もうとリフォームをして待ち構えているところ。でもできる限り二人暮らしを続けていきたいという二人の希望で、まだ同居には至っていません。穏やかな二人の時間を手放すには、まだ早いと思っているようです。
とはいえ父も母も体調が以前の通りとは行かないでしょう。庭の手入れも今までのようにできていないはずです。そんな時、突然美しい花束がやってきて二人の世界を彩るならば、父と母はどんな心地になるだろう。ああ奇麗だ、うれしいなあと飽きず繰り返し言ってくれるのではないかと期待しています。
二人暮らしの新しい記憶の中に、そんな時間を贈ることができたなら。
そんな思いで応募させていただきました。

花束をつくった東さんのコメント
四季折々の自然を楽しみながら、日々を丁寧に暮らしていらっしゃるお母様。そして力仕事などでお母様を助けるお父様。高齢のおふたりが助け合う生活が目に浮かぶ投稿に、心がほっこりしました。そんなおふたりに、過ぎ去っていく夏を惜しむ気持ちを込めて、夏らしいパステルカラーのブーケをご用意しました。ご投稿にあるように、ブーケにおふたりで何度も目をやりながら「ああ、綺麗」「うれしいなあ」と繰り返し言ってもらえるとうれしいです。おふたりの素敵な暮らしが、いつまでも続きますように。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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