悲しい花が最後にならないように。父へ贈り直す花束

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
河合真砂子さん(仮名) 28歳
会社員
愛知県在住
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昨年父が63歳で亡くなりました。ガンとの闘病が始まってから、あっという間の4年間でした。病気がわかったとき、大学を卒業したばかりだった私は地元を離れ、東京で生活していて、もう一人の妹は大学生でした。
父はガンの宣告をされ、「オペが始まると、話せなくなる」と言われました。父の声が聞けなくなる……そんな宣告に、家族全員が大きなショックを受けました。もちろん一番ショックだったのは父。でも家族に心配をかけたくなかったのでしょう。「大丈夫」と気丈に振る舞っていました。最後に父と話した会話の記憶はもうないです。ただ、声はいつでも思い出せます。
両親は魚料理をメインにした居酒屋を経営していました。父はもともと口数の少ないほうで、私たち子どもの話もいつもよく聞いてくれました。お店でもお客さんとのおしゃべりはもっぱら母の役目、父は黙々と仕事をしている姿が印象に残っています。でもいつも多くのお客さんに囲まれて、その仕事姿は華やいで見えたものです。
どんなに体調が悪くてもどんなに天気が悪くても、いつも父は仕事をしていました。そして少しでも時間ができると、私たち子どもに目いっぱい時間を使ってくれました。公園に連れて行ってくれたり、買い物に連れて行ってくれたり。休みの日の家族での食事やたまの外食が、家族にとってとても大切な時間でした。
私が大学4年生の時、父は突然禁煙をし、ランニングにハマったり、読書にふけったりするようになり、健康的な生活を送っていました。そこから半年ほど経ったころ、冒頭にあったガンの宣告となったのです。
やがて体が動かなくなり、ご飯が食べられなくなり、眠る時間が増えました。その頃私は会社に異動を願い出て認められ、実家に戻ることに。家族の思い出もたくさん作ることができました。地元の名所に出かけたり、ドライブしたり。家族そろって、ゆったりだんらんする時間も持てました。忙しかった父に、神様が最後の贈り物として時間をくれたのだと思います。
私は趣味でお花を育てていますが、父の最後の景色として棺おけにお花を入れるシーンが鮮明で、花を見るたび悲しい思い出がよみがえってしまいます。そこで家族思いだった父に感謝を込めて、お花を贈り直すことができればと思っています。棺(ひつぎ)に入れた悲しい花が、父への最後の贈り物にならないように、あらためて笑顔で、感謝を込めたお花を贈りたいです。

花束をつくった東さんのコメント
口数が少なくて、でも娘さんたちのお話はじっくり聞いてくれる……素敵なお父さまですね。今回は居酒屋のお仕事にも黙々と打ち込み、まだまだこれからという63歳で亡くなったお父さまのイメージで、和のテイストを感じてもらえるようなアレンジに仕上げました。
例えばノーブルという八重咲きのユリや、アジサイなどグリーンのお花を集めてあります。お花から悲しいイメージを思い起こしてしまわないように、例えば同じユリでも、よくある白ユリとは、あえて雰囲気ががらりと違うものを選びました。
またアイビーは強いので、アレンジで楽しんだあとお水につけたら育てられる可能性も大。植物の力強さを感じていただけたらうれしいです。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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