■特集:多様化する年内入試
大学入試では総合型選抜や学校推薦型選抜といった「年内入試」が広がり、今や大学入学者の半数以上がこの入試を利用しています。大学が自分たちの求める学生をより確実に選抜しようとする動きが強まることで、その選考内容も多様化。受験者同士の討論の様子や、課題教材への理解度が評価されるなど、入試を受けることそのものが学びにつながる試験も出てきています。(写真=お茶の水女子大学の入試会場の一つとなる大学図書館、お茶の水女子大学提供)
年内入試で増える「事前プログラム」
秋ころから動き出す年内入試の特徴は、時期の早さだけではありません。選考内容も多様で、最近は試験に先駆けて様々な事前プログラムを用意している入試も登場しています。例えば、和光大学心理教育学科(子ども教育専修 保育コースなど)の「スクーリング形式入試」の出願条件は、8月中に実施される「スクーリング授業」に参加してレポートを書くことです。そのうえで個人面談によって出願許可を得られた受験生のみ、総合型選抜にエントリーできます。
また、創価大学の「PASCAL入試」は、3月から8月まで、高3生を対象に「チャレンジプログラム」を用意しています。このプログラムでは、事前に予習教材を読んでノートを作成したうえで、話し合い学習法(Learning Through Discussion)というグループワークに取り組みます。プログラムへの参加が出願条件というわけではありませんが、本番に役立つトレーニングであり入学後にも役立つ学習法でもあるので、多くの受験生が参加します。
お茶の水女子大学が2017年度入試から実施している「新フンボルト入試」も、事前プログラムを含む入試の一つです。入試推進室長を務める杉野勇・文教育学部教授は、次のように説明します。
「新フンボルト入試で文系学科を受験する場合は、9月末に行うプレゼミナールの受講が必須です。これが第1次選考となるため、受験生にはセミナー後の60分間でレポートを書いてもらいます。しかし、これだけで合否が決まるわけではありません。プレゼミナールは、受講必須ではない理系学科の受験生や高2生も参加することができ、アカデミックなオープンキャンパスの役割もあります」
第2次選考は、10月の「図書館入試」です。9時半から15時半までの6時間、受験生は大学の図書館から出られません。当日発表されるテーマに沿って、館内の蔵書や資料を活用してレポートを作成します。
23年度・文系の入試問題では「『本物』とは何ですか。自由に論じて下さい」というレポートテーマが出されました。

「1次選考はいわば大学での授業を体験するもので、2次選考は大学生としての研究方法を学ぶもの。新フンボルト入試が目指すのは、『受験することに意義がある入試』です。教員のこの思いが受験生にも伝わるのか、導入以来、約10倍の高倍率を保っています」
この入試に合格して入学した人には一定の傾向がある、と杉野教授は感じています。
「自らどんどんチャレンジする学生や、積極的に意見を表現する学生が多い気がします。これまでの一般選抜の合格者は、真面目で優秀だけれど、おとなしくて、いい考えを持っているのに発言しない学生が多い傾向がありました。そうした控えめな学生たちを、新フンボルト入試の合格者がグイグイ引っ張ってくれる変化が起きています」
「友達になりたい子」と出会える
新フンボルト入試で入学した文教育学部人文科学科3年の平子七海さんは、合格した理由を次のように分析しています。
「自分の思考を、妥協せずに粘り強く言語化したことを評価してもらえたと思っています。私は文章を書くことが好きなので、当日の小論文もとても楽しかったです。この入試を受ける人は、自分の考えていることを形にするのが好きだったり、得意だったりする人が多いと思います」
文教育学部人間社会科学科3年の浅沼千文さんも、同じような感想を持っています。
「私も新フンボルト入試の受験者は、似たタイプの人が多いように感じます。大学が求める人物像を理解して、自分がそれに重なると考える人が集まるからではないでしょうか。それもあってか、『この子と友達になりたい』と思える人に出会えるのも、この入試の面白いところです。私は2次選考の会場で席が近かった子と仲良くなり、『またここで会おうね』と話して別れました。その子は落ちてしまったのですが、一般選抜でリベンジを果たして、約束通り大学で再会できました。いまもとても仲のいい友達です」
北海道出身の浅沼さんは、中学時代からお茶の水女子大学を視野に入れていました。プレゼミナールには高2から参加し、「やっぱりここに行きたい」と確信したといいます。
「多くの人は、大学受験は苦痛だと思っているのではないでしょうか。でも、この入試はそうではありません。知識偏重でないこうした入試を実施するということ自体、私はこの大学が好きだなと思えました」
試験を通して成長できる
共創工学部人間環境工学科1年の石塚志伊さんは、理系学科に課される「実験室入試」で合格しました。
「私はこの学科に入りたいと早くから希望していました。理系という概念に固執しない学びにも、単なる知識勝負ではない入試方法にも、魅力を感じていたからです。しかも入試では、6人もの大学教授、つまりプロの研究者と直接話ができるのです。こんなチャンスはなかなかないし、受けること自体に大きな意味があると感じて挑戦を決めました」
理学部生物学科1年の横川暖さんも、「自分がしたいこと」から志望校と受験方式を選びました。高校時代からチームと個人とで合わせて3つの研究に取り組んできた横川さんには、お茶の水女子大学が魅力的に思えました。
「生物学科には1年次から実験や研究に取り組める『アドバンストプログラム』という制度があります。それまでも実験に注力してきたので、何としても合格したかったんです」

横川さんは高校時代、ほとんど先行研究のなかった花びらのアスコルビン酸(ビタミンC)について研究し、世界初の発見をした実績を持っていました。その成果をまとめた入試当日のポスター発表では、学会さながらの質疑応答もあったそうです。
「鋭い質問に、答えに詰まることもありました。でも『わかりません』と言ったら終わってしまいます。内容が間違っている自信がありましたが(笑)、自分の言葉で答えることで、先生方とより深いコミュニケーションができたと思います。この試験の最中にも自分が成長している実感があり、この入試はとても有意義な経験でした」
こうした入試方式は対策が難しいものですが、平子さんは自分なりの練習を続けていたといいます。
「高校では、新聞記事を読んだり、大学の模擬授業の動画を見たりして感じたことをレポートにまとめ、それを国語の先生に見てもらっていました。日頃から、気になった言葉をメモする習慣をつけるのもおすすめです」
石塚さんも、日常の積み重ねが新フンボルト入試に生きたと考えています。
「環境に関わる社会課題のことは、受験のためでなくとも知っていなければいけないことだと思っていました。新聞を読んだり本を読んだりしながら、自分自身で考えることを大事にしてきました。好きなことを突き詰める経験が、きっと結果につながると思います」
年内入試では、受験生のそれまでの経験を評価するケースが多くあります。それは学力偏重からの脱却を目指す一方で、地域格差が表れやすいという面があるかもしれません。しかし、北海道出身の浅沼さんはこう話します。
「都会にはイベントや施設も多く、たくさんの経験のチャンスがあると思いますが、私のような地方出身者はそうはいきません。でも、この入試方式はそうした経験だけでなく、発想のプロセスやこれからのポテンシャルも評価してもらえる貴重な機会です」
4人の学生が異口同音に語ったのは、「入試が楽しかった」ということです。新フンボルト入試の体験自体が、入学後の学びのモチベーションを高めていることが伝わってきました。大学側の「受験することに意義を」という狙いは、かなり実現されているようです。
(文=鈴木絢子)

【写真】図書館に6時間こもって入試 受験生は「とても楽しかった」「友達になりたい子に出会えた」
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