Polo G

哀愁漂うシンガー／ラッパーがひしめく中で、Polo Gの存在感は際立っている。20歳の誕生日を迎えるまでに経験したという、貧困、飢餓、ギャングの暴力、薬物依存、刑務所などのトラウマの深さや、それを共有しようとする姿勢ではない。彼が際立っている理由は、その焦点にあるのだ。「Heartless」「Pop Out」「Through da Storm」「Go Stupid」といったPolo Gの曲を聴けば、制作にこだわるアーティストの声が聞こえてくるだろう。彼のフロウは緻密でありながらもメロディックで、歌詞は平易な言葉でありながらもイメージやディテールが詰め込まれており、2010年代の大半を占めていた緩い印象主義よりも、クラシックなラップの名人芸に近いものがある。ラッパーたちが興味を引くために次々と曲を制作するカルチャーの中で、Polo Gは常に出し惜しみしてきた。ミックステープは作らないし、リリースから3か月後に特典をつけてデラックスエディションを発売することもしないし、アルバムの尺は80分よりも40分に近い。過去には、フリースタイルはせず、作詞していることを公言している。彼にとって、作詞が終わったときこそがレコーディングのタイミングとなる。レコーディングセッションで納得のいく結果が得られなかった場合は、それは胸にしまっておくのだ。1999年に生まれたPolo G（本名Taurus Bartlett）は、シカゴの公営住宅で育ち、地元のヒップホップの中でも“ドリル”と呼ばれる、ラフでスピーディなスタイルで育ってきた。地元のヒーローであるG HerboやLil Durk、そして、チーフ・キーフのように、Polo Gの作品の主なテーマは、私的なもの、人種的なもの、世代的なものなどを含む“痛み”だった。デビュー作である2019年の『Die a Legend』は説得力のあるタイトな作品だったが、彼は先人と同じようなスタイルでは得られる利益が限られていることを理解していた。続く2020年の『THE GOAT』を進化するチャンスと捉え、自身のパフォーマンスを輝かせる激しさを維持しながら、よりポップでクラブ向けのサウンドを探求している。