野中郁次郎先生が亡くなられたと聞いたとき、非常に残念でした。野中先生とは、『知識創造企業』や『ワイズカンパニー』で共同研究されていた竹内弘高氏のご子息の結婚式で同席になり、話が弾みました。しかし、それ以来なかなか交流の機会はなく、もっと色々なことを聞いておけばよかったと後悔しています。我々の経営をどのようにみて、改善する点はないか、世界に出て行くためにはどのような点に磨きをかけるべきか、経営についてお互いに話ができればよかった。

 正直なところ、野中先生の本は『失敗の本質』と『ワイズカンパニー』くらいしか読んでいないんです。ただ、ここで言っている「知識を行動に変える」という姿勢は、まさに我々がやってきた経営そのもので、野中先生を同志のように感じていました。

ある意味、戦略はどうでもいい

 野中先生のお別れの会でもらったメッセージカードの冒頭に「経営とは、生き方(a way of life)である」と書かれているのですが、その通りですよね。経営とは、どのような会社をつくり、方向性をどこに持っていくのか、一緒に仕事をしたいと思われるのはどのような人間なのかという問題です。その観点から言えば、戦略とか戦術はどうでもいいんです。

野中氏のお別れの会で贈られたメッセージカード。「野中氏の思いがここに集約されているのではないか」と柳井氏は話す(写真=竹井 俊晴)
野中氏のお別れの会で贈られたメッセージカード。「野中氏の思いがここに集約されているのではないか」と柳井氏は話す(写真=竹井 俊晴)

 本来、経営は事業をやることの意味や社会にどう貢献しているのか、自分たちのサービスや商品がどのように評価されているのかを本質的に知っている人がチームを組んで取り組まなければいけません。しかし、日本を含む世界中の大きな会社では得てして官僚制になりがちです。それが制度疲労を引き起こしてしまっている。

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