甘さも食感も自分好みに、手作りあんこ

料理家・冷水希三子(ひやみず・きみこ)さんが読者と私たち編集部のリクエストに応えて料理を作ってくださるという夢の連載。今回は小豆(あずき)をコトコト煮て作る、自家製のあんこ。お店で作るときほど難しい工程を経ず、家庭でも挑戦できる作り方です。失敗しないコツや活用法も教えていただきます。
―― 冷水先生、こんにちは。4月に入って、いよいよ春本番という感じですね。
冷水 はい、新生活を始める人もたくさんいて、心躍る季節ですね。
―― 私はいつもと変わらぬ生活ではありますが、4月はなんだか新しいことにチャレンジしたくなります。
冷水 そうですね。じゃあ今日は何か新しいお料理に挑戦してみてはどうですか?
―― う〜ん、新しい料理……。あ、そういえば以前からお菓子作りには挑戦してみたいと思ってきたのですが、中でも和菓子はハードルが高くて、ずっと先延ばしにしていたんです。
冷水 確かに和菓子は難しいかもしれませんね……。では和菓子の基本となるあんこに挑戦してみるのはどうですか?
―― あんこ! ずっと前から作ってみたいと思っていたんです。私でも作れますかね?
冷水 ポイントを押さえれば大丈夫ですよ。砂糖の種類や量、煮る時間などをいろいろ試して、自分好みのあんこを作れるようになると楽しいです。
―― ぜひ、お願いします!

冷水 ではまず小豆の準備から。小豆は水で洗って、小豆の重さの3倍の量の水と一緒に鍋に入れます。中火にかけて15分~20分ほど茹(ゆ)でてください。
―― お豆って一晩水で戻すことが多いですが、小豆はそれは必要ないんですね?
冷水 はい、思い立った時に作れるので手軽ですよ。
―― わあ、茹で汁が小豆色になってきました!
冷水 はい、この茹で汁の中にアクや渋みが出ているんです。小豆の皮と中身の柔らかさを一定にするために、途中1カップほど差し水をしてくださいね。
―― 20分茹でたら、茹で汁が真っ赤になりました。
冷水 そうしたら小豆を湯切りして取り出し、鍋を洗います。きれいになった鍋に小豆を戻し入れて、また3倍量の水で茹でていきます。この時、鍋を洗わずに使うと鍋に残ったアクや渋みが小豆に戻ってしまうので、必ず洗ってくださいね。

―― このひと手間が、おいしさを作るんですね。
冷水 沸いたら落とし蓋をして、弱火で4〜50分茹でます。だんだん湯が蒸発して少なくなってくるので、常にひたひたの湯量を保つように、適宜差し湯をするようにしてください。
―― 最初は差し水でしたけど、2回目は「差し湯」なんですね。
冷水 はい、ここで水を加えてしまうと、小豆の皮が破れてしまうんです。味にはそこまで変化はありませんが、見た目や食感が悪くなるので。
―― なるほど、食感は大切です! ちなみに、1回目も2回目も小豆の3倍量の水で茹でるとのことですが、この時の水の量は多すぎるとダメなんですか?
冷水 茹でる際の水分が多いと、小豆の味が抜けてしまうんです。多少の誤差は構いませんが、あまり多いとよくないですね。
―― 理由がわかると、面倒な計量もやる気になりますね(笑)。
冷水 4〜50分ほど茹でたところで、小豆を一粒指でつまんで固さをチェックしてください。指で押して簡単につぶれたら大丈夫です。小豆は柔らかくならないと砂糖の甘みが入らないので、もしまだ固いようだったら、加減を見ながらもう少し火を入れてくださいね。

―― はい、簡単につぶれるので、これで大丈夫だと思います!
冷水 ではまた小豆を湯切りして鍋をきれいに洗ってください。次は小豆の2倍量の水を鍋に入れて、そこに半量の砂糖を加えて火にかけます。砂糖が溶けたら小豆を加えて2〜3分煮て、一度火を止めて15分ほど放置します。
―― ここの15分休みは何のためなんですか?
冷水 砂糖の甘みを小豆に入れるためです。砂糖の甘みは温度が下がっていく時に素材によく入っていくんです。
―― なるほど! 煮物なんかもそうですよね。熱々の時はそれほど甘くないのに、冷めると甘さが増します。
冷水 15分休ませたら再び火にかけて、残りの砂糖を加えます。小豆が好みの柔らかさになったら完成です。ここで注意なのですが、小豆は冷めると固まって、思った以上に固くなります。なのでイメージしている固さよりも、やや柔らかいかな……ということろまで煮るとちょうどいいあんばいになると思います。
―― そこはもう何度かやって経験を積むしかないですね……。ちなみになのですが、砂糖を加えるタイミングを2回に分けるのは、どうしてですか?

冷水 これも甘みの入り方の問題で、砂糖は一度に甘みが入りづらいんです。なので2回に分けて、じっくりと甘みを浸透させます。
―― 砂糖を制するものが、あんこ作りを制するのですね!
冷水 小豆と砂糖だけで作るものですから、シンプルなものほど繊細な調整が必要なんです。できたてのあんこはかなり甘く感じますが、冷えると甘さは落ちつきますので、安心してくださいね。
―― 保存期間はどれくらいですか?
冷水 冷蔵庫保管で4〜5日ですが、小分けにして冷凍するのもおすすめです。できたてのあんこはバットにあけて冷ましてください。好みで粒をつぶしてもいいですし、粒感を楽しみたい方はそのままでも。
―― わあ、冷めていくとだんだんと固まってきました。けっこう柔らかめだなと思っていたのですが、これはかなりの変化ですね。

冷水 今日はバターと一緒にトーストにのせて、あんバタートーストにしてみました。甘さや食感はどうですか?
―― う〜ん、程よい甘さで上品です。市販のあんこよりずっとおいしいくて感激です! 粒感もしっかり残っていて、なんとも贅沢なトーストですね。
冷水 今日は和三盆を使いましたが、きび砂糖を使うとよりコク深く、上白糖やグラニュー糖を使うとキリッとした甘さに仕上がります。自分好みのあんこの風味を想像しながら、いろいろ試してみてください。
―― あんこ作りの道は奥深く、楽しいですね!
手作りあんこ
◎材料
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小豆150g
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水適量
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砂糖120g(小豆の70~80%量)
- 洗った小豆を鍋に入れ、小豆の量の3倍の水と一緒に15~20分ほど火にかける。途中で差し水を1カップほどして茹でる。
- 1の小豆をザルで湯切りし、鍋を洗う。きれいにした鍋に小豆を戻し入れ、小豆の量の3倍の水を加えて火にかける。沸いたら落とし蓋をして、弱火で柔らかくなるまで4~50分茹でる。この時、ひたひたの湯量を保つように適宜差し湯をする。
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2の小豆をザルにあげ、鍋を洗う。きれいにした鍋に小豆の量の2倍の水と砂糖の半量を加え、中火にかける。砂糖が溶けたら小豆を加えて2~3分煮て火を消す。そのまま15分ほどおいたら再び中火にかけ、沸いたら残りの砂糖を加えて好みの柔らかさになるまで煮る。

差し水と差し湯で好みの食感と甘さを実現。甘党にはなんとも代えがたい魅力である。